第62話 まあ、サプライズがある人とつるんでいるほうが何かと人生楽しいよね。
後日談、というか。
普通のラブコメだったならあの後なんかこう、言葉にしがたい甘いお時間をお過ごしになったのかもしれないけど、相手はなんせ栗山さん。
予想を常に斜め上に裏切る栗山さんだ。
一応病み上がりのはずの僕は、通常運転の関係に戻ったツインテールの先輩にてんてこ舞いさせられた。
まず久々の家ってことでゆっくりしたいのに、長い間僕と絡んでなかったからか、栗山さんが僕に構う構う。暇さえあれば僕のシャツの袖をつまんでは「えへへー」と笑い、また暇があけば「えへへー」。何この可愛い生き物。これで栗山さんじゃなかったら一瞬で堕ちてたよ僕。
あまりにも栗山さんがちょっかいをかけてくるので仕方なく「じゃあゲームします?」と言うと喜んで「やりたいー」と。
で、かの有名な(島松とやった)乱闘するゲームを二人やり始めると、なかなかに僕が圧勝。僕が勝つたびに「上川くん強すぎだよー」とポカポカ僕のことを叩いてくる。優しくね。
……え、何この可愛い生き物。
あまりにもいつもよりかまってちゃんなので「どうかしましたか?」と聞くと、
「……だって……一か月くらい会わなかったから……寂しかったんだよ?」
なんて答えるから、僕は顔の筋肉に力を入れてなんとか悶えそうになるのを堪えた。
あれ? これ普通のラブコメのワンシーンなのでは?
その後。どうなったかと言うと。
春のうちに内定が決まった栗山さんは、あっという間に卒論とゼミだけを残した暇人大学生と化し、ほぼ毎日僕の家に入り浸るようになった。……まさかあんなに早く栗山さんが内定貰うとは思わなかった。世渡り上手いのかなあ……。
一時は相当危うい関係になった綾だったけど、今は普通に幼馴染をやっている。毎週土曜日に僕の家に来る習慣も継続していて、栗山さんとも完全にとは言わないけど、ある程度は仲良くなったみたいで(ほんと、どうやって仲良くなったんだこの二人?)、会うと栗山さんが綾の髪をモフモフしていたり抱き着いていたりとそれはそれはゆりゆりしてる。
そうそう、古瀬さんと島松だけど、春休みの間に一緒に旅行に行ったらしい。……聞こえはいいが用事はゲームの全国大会だからどこまでも島松らしい。
でも、そのことを聞いても、何とも思わなくなるくらいには、僕も回復したってことなんだと思う。もうあの片想いは、墓場まで持っていくんだと思う。古瀬さんに言うことは、絶対にありえない。古瀬さんと島松は、バレンタインの騒動以来、特にこれといった事件は起きていないので、順調に交際は進んでいるんだと、信じている。
交際、ねえ……。
結局、僕と栗山さんの仲を固定する言葉が定まらないまま、ずるずると時は流れていた。綾からも、
「いい加減付き合ったらどうですか。それとも私への嫌がらせですか? よっくん」
と言われる始末。さらには、
「私が次に来る土曜日までに付き合ってなかったら襲うんで覚悟しておいてください」
と。こわい。女子高生から襲うって言われた……ドアチェーン忘れずに用意しておこう。
さて、そんな状態で迎えた春と夏の中間くらいの季節。梅雨入りもまだで、なんだかよくわからない季節感に陥る時期のある日。
その日は当たり前のように僕の家に通い詰める栗山さんが泊まることになっている日で。
さすがに綾に襲われるわけにはいかないし、いい加減このふわふわした僕と栗山さんの関係にも決着をつけるべきかもしれない、そう思い、僕は決意を固めていた。
認めよう、僕は栗山さんのことが好きなんだと思う。あの雰囲気に、なんだかんだでやられてしまったんだ。
だから、今か今かと年上ののほほん系彼女が家のインターホンを鳴らすのを待っていたのだけど、
ピンポーン
「……はーい」
来たか。僕は部屋を出て玄関へと向かう。ドアを開けた先には、
「えへへ……ごめんね、上川くん、お風呂貸してもらってもいいかなあ……?」
どういうわけか髪から服まで水にびしょ濡れになっていた栗山さんが立っていた。
「ちょっと、水たまりの近くに通りかかった野良猫を眺めてたら、猫に水をかけられちゃって……えへへ」
そう言うと、彼女は胸元をパタパタするように風を通そうとするものだから、色々見えてしまいそうになって、
「っ、いっ、今用意するんで中に入っていてください!」
……いや、ラブコメっぽいラブコメってこれでいいですか? 自信ないけど。
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