第51話 男の勘はあてにならないが、とりあえず殴り合わせれば解決するからそこらへんはわかりやすい(手段問わず)。
「え、なんでわかったんだ?」
驚きに満ちた顔で、島松は僕のほうをじっと見る。その隙に、でんこうせっかとでんげきをちまちま放って島松の操作キャラの体力を削る。
「なんでって……男の勘って奴?」
が、島松はすぐに視線をモニターに戻し、お返しと言わんばかりに連続攻撃をくらわせる。……やっぱり上手い。
「女の勘みたいに言うなよ、上川、面白いなあ」
……きっかけは古瀬さんだったから、女の勘と言えば女の勘なんですけどね。さあ、少しずつ情報を出してもらおう。
「……その人とは、かなり仲が良いの?」
「うーん、実は前々からゲームの大会とかでよく見る人でね、顔だけは知っていたんだ。で、最近そこのゲームソフトが並んだ棚にある右から三番目の、そう。あのソフトと秋葉原のメイド喫茶がコラボをやりだして。それで何回か行ったらさ、その人がメイドとして働いていて。びっくりしたなあ。向こうも俺のこと知っているみたいで、そこから交流が始まった、って感じ」
対戦も終盤にさしかかり、僕は島松のキャラから距離を取り遠距離の攻撃を、島松は一発が重たいキャラを使っているので接近戦を挑もうとし、半ば鬼ごっこのような駆け引きが始まる。
「フレンド登録とかはあらかた済ませて、オンライン上で一緒にゲームすることは日常かなあ。ここ最近ずっとその人とゲームしてる。やっぱり上手い人とやると刺激になるしね。人もいいし、一緒にやっていて苦にもならないしね。だから、この間家に呼んでリアルで顔合わせてゲームしてたよ」
……やっぱり、島松はどこまでも島松だったな。思考がゲームを中心に回っている。きっと、島松に「浮気」という意図はなかったんだと思う。
「……ただの、ゲーマー仲間?」
「そうだね、ただの仲間かな」
やはり。島松は純粋にゲームのためにその女性を家に呼んで、一緒にゲームをやった。そこに他意はないんだと思う。
ちょこまか細かい動きをしていた僕だったけど、とうとう島松につかまり、重たい一撃を受けてしまう。あと一発、同じような攻撃を貰うとゲームセット、って感じか。
「ちなみにさ。それ、古瀬さんにはちゃんと言った?」
「いや……言ってないけど」
まあ、そうだよね、そこまで頭が回るのなら今僕はこうして島松とゲームなんかしてない。
「あのさ……まあ、島松に悪気はないのかもしれないけど、彼女いる身で他の女性と二人きりで会って、ましてや家に上げるなんてするなら最低でも教えとくのが礼儀なんじゃないのか?」
「……そういうものかな? 別に、そんなつもりはないんだけど」
「お前はそうだとしても、古瀬さんは不安になるだろ?」
「…………」
「無言になると急にプレイの精度上げるのやめろ、本気の島松には絶対勝てないんだから」
「まあまあ」
「島松が浮気するような度胸を持っているとは思わないけどさ。……それでも、他の女性と二人で会うのは控えたほうがいいって。やるにしても、家の外とか。……会うにしても、やっぱり事前に古瀬さんに一言ぐらいは伝えてあげたほうが、いや、伝えろ」
「……ま、まあ上川がそこまで言うなら……」
そう言いつつ、ゲーム馬鹿の島松君は黄色いネズミを捕まえると基本攻撃で積もったダメージにさらにダメージを重ねる。一旦攻撃を止めたかと思えば、すぐさま必殺技を放つ。僕のねずみはあっけなく画面外へと飛んでいきすぐに。
GAME SETの文字がカットインする。
「いやー、上川もなかなか上手いよ、結構時間使わされたし、ストック制じゃなくて制限時間制だったら結果分からなかったと思うよ」
素直に強かったよ、というようなまなざしを彼は僕に向ける。……やっぱり、ゲーム脳だな、島松は。
「まあ、それなりにやりこんではいたから……」
お互いコントローラーを離し、一旦水分を補給する。
「……その人と会うなとも一緒にゲームするなとも言わねえけどさ、僕は。……でも、少しは古瀬さんの気持ちも考えてあげなよ」
……とんでもないブーメラン発言だよ。言っている本人が近くにいる人の気持ち感情一切受け止めてないっていうのに。
でも、言えば島松はわかる奴だから、こう言えばきっと改善してくれるはず。だから、もう心配することはない。
河川敷で殴り合いの喧嘩はせずとも、画面上で乱闘をして言いたいことを言うあたり、現代っぽいなあと心の隅で思った。とりあえず、ひとつ問題は片付いた、僕はそう認識した。
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