第50話 立ち眩みは起こる場所によってはほんとに危ないから気をつけろ。階段、お風呂場その他色々。
「……朝……か」
いけないいけない。結局あのままテーブルの上にもたれかかって寝てしまったみたいだ。カーテンの隙間から流れてきた太陽の光に目を覚まし、僕は目をこすりつつ立ち上がる。
「とりあえず……お風呂入ろう」
この死んだ思考回路を島松のところに行くまでに生き返らせないと。
そう思い浴室へと歩き出そうとすると、
「んっ……」
急に視界が暗くなり、支えなしに立っていられなくなる。堪らず部屋と台所を繋ぐ扉のドアノブにつかまり、僕はゆっくりとしゃがみ込む。
た、立ち眩み……? かな……?
そのまましばらく収まるのを待つ。立ち眩みはじきに終わり、僕は気を取り直してお風呂にお湯をはりに向かった。
お風呂から上がると家を出ないといけない時間になっていた。
時間が余ったらクリームシチューを食べていこうと思ったけど、仕方ない。
島松の家まで大体一時間半。
……行くか。
電車と地下鉄を乗り継ぎ、到着した島松の家最寄り駅、月島。緊張も含む面持ちで駅から家までの道のりを歩いていく。頭のなかはすでにどうやって聞き出すかということでいっぱいになっていて、普段見慣れない景色も目に入ることはなかった。
年末に来て以来の、島松の家。玄関の前ですっと深呼吸をし、意を決してインターホンを押す。
すぐにドアは開かれて、にこやかに笑みを作った島松が僕を出迎える。
「いらっしゃい、まあ上がってよ」
「お邪魔します……」
さして前と変わらない雰囲気の部屋の中。「座って座って」と促され僕は前と同じように座椅子に腰を落とす。
「でもさ、急にどうしたんだ? 遊びに来ていいかって」
冷蔵庫からペットボトルのジュースとコップを持ち出してくる島松。テーブルにりんごジュースを注いだコップを僕の前にトンと置き「飲んでいいよ」と言う。
「い、いただきます」
一口飲んでから、
「春休みずっと暇でさ、外出する理由が欲しかったっていうか」
と適当にここに来た理由をでっち上げる。あまり甘みを感じないのは、このジュースがそういう味だからだろうか。
「ふーん、そっかそっか。まあ、とりあえず、やる?」
彼はゲームのコントローラーを掲げ、僕に尋ねる。
「うん、いいよ」
断る理由もないので、またこの間と同様にゲームをして遊ぶことになった。
「……そういえばさ、島松って兄さん以外の親戚っているの?」
画面に映る操作キャラが落下しそうになり、なんとか高速移動で崖にしがみつかせつつ僕は隣に座っている島松に尋ねる。
「んー? いないよ。親戚らしい親戚もいないし」
「そっか」
なんとか戦場に復帰するも、その瞬間を待ってましたとばかりに島松は僕のキャラを一発で画面外へと吹き飛ばす。
「……最近、古瀬さんとはどう?」
「んー、とくに変わりはない、かな……でも、最近家に来る頻度が減ったっていうか……」
少しして、僕の黄色いネズミっぽいキャラが最後のストックを使い復活してくる。けど、すぐに島松は速攻をしかけダメージを重ねていく。
「何かやらかしたんじゃないのか?」
「そんな心当たりないんだけどな……」
…………。ふーん。
僕はその瞬間、キャラとキャラの立ち位置がはまったのを見逃さず、空から雷を降らす。ダメージがたまっていた島松の操作キャラは吹き飛んでいき、ようやく三機あるうちの一機を削ることに成功した。これで一対二。
「あっ、やべっ」
「……最近仲良くしだした人とかに気づかれたとか?」
くさびとなる問いを、隣のゲーマーに投げた。すると、彼はすぐに質問に答えてくれる。
「あー、でもこの間ゲーマーの知り合い家に呼んでゲームの練習はしたからなー。でも、その日古瀬さんは家に来てないはずだし、見てないと思うんだけど……」
……釣れた。僕は畳みかけるように質問を重ねる。
「その知り合いってさ……女性だったりする?」
……今日の、最大の目的を果たすために、僕は彼に聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます