第47話 いつだって言う言葉がブーメランにならないように気をつけろ。
「それで……家の前で待っていたら、仲良さそうに島松とこの間の店員さんが帰って来た、と」
待ち合わせの喫茶店、僕は一日ぶりのご飯のハムサンドを食べきり、古瀬さんの話をそう締めくくった。彼女は今日はシンプルな白色のワイシャツに薄茶色のズボンという組み合わせ。普段と明らかに違うのは、眼鏡をかけているということ。……まあ、散々泣いてあれだけ目を腫らしたら、コンタクト入らないよね……。
「はい……」
「なるほど……ね」
休日のお昼時、ということもあり店内はそれなりに混んではいる。けども、雰囲気が呼ぶ人を選んでいるからか、騒がしくなることはない。
一旦コーヒーを口に含んで僕は間を置く。
「実は姉とか親戚でしたってパターンは?」
「島松君、お兄さんしかいないって言ってました……」
うーん……よくある勘違いパターンなんだけど、そうではないようだ。さすがにお兄さんの結婚相手のはずはないだろうし、甥っ子がいるってなら尚更あり得ないだろう。
彼女とは言え古瀬さんも島松にいとこはとこがいるかどうかなんてわからないだろうし、そこは今度僕が島松に会ったときに聞いてみるのが自然だろう。
最後まで親戚でしたって可能性は頭のなかに入れないと。
……最初からこれくらい慎重になっていればこんなことにならなかったのに、と頭を抱えたくなる。
「島松、古瀬さんに何か言ってる……?」
「いえ……とくに何も」
状況だけみればほぼ真っ黒なんだよな……島松。古瀬さんの見間違えとかでない限り。でもこの間のメイド喫茶の店員さんの顔まではっきり覚えている人が自分の彼氏を見間違えるなんてことしないだろうし、そこは信用していいと思うんだよな……。
ってことは、親戚とかでないと、アウト……。
「とりあえず。明日島松の家に僕が行ってみる。それとなく話を聞いてみるよ。浮気を断定するのはそれからでも遅くない」
浮気、という言葉を聞いて彼女は視線を床に落としてしまう。やはり精神的にきついものがあるのだろう。
「……私に魅力がなかったから……なのかな……」
コツンとコーヒーの入ったカップをお皿の上に置きつつ、古瀬さんは小さく呟く。
「いやっ……それは違……うと思う」
……フォローを入れて然るべき場面なんだろうけど、食い気味に言ってしまい、僕の伝えていない気持ちまで漏れてしまうのではないかと躊躇ってしまう。
「……いいんです、上川君……気遣わなくて……私、自分が地味なのは理解しているので……」
ああもう、下手に言葉詰まらせたから逆効果になった。
「別に、客観的に見ても。……古瀬さんは可愛いと思うから、そんなことはないと思う」
仕方ないので、はっきりとストレートに事実を伝える。あまり余韻を持たせると僕が弱っている古瀬さんに付け込んでいるようになってしまうので、すぐに二の句を継ぐ。
「それに、仮に浮気なら悪いのは島松だから。……古瀬さんが自分を責める必要はない」
僕の言葉を聞いて、古瀬さんは顔を赤くして少しだけ小さくなる。
……直球過ぎたかな……。彼氏持ちの女の子にただの友達の男に可愛いって言われても困惑するだけだったかな……。
「まあ……今はまだ何もわかっていないようなものだしさ。何か別の話でもしよう? なんかこういう話ばかりしてたら、ストレスで胃に穴が開いちゃうよ、古瀬さん」
今日のところは聞くべき話も聞けたし、これ以上彼女に負担をかけたくなかった僕は、話題を変えて少しでも気分転換になってもらえたらと思い、そう切り出す。
「そうだ、古瀬さんって三年のゼミどこになったの?」
「えっ……その、
「宇田先生ってことは、やっぱり古瀬さんも近現代の文学に興味あるの?」
「は、はい……」
「僕も宇田先生と近世文学の
「そ、そうなんですね、じゃあ三年生は」
「うん、同じゼミになるね」
「よかった……ゼミに知っている人がいるのといないのと差があるので……。上川君がいるなら安心です」
少し表情を綻ばせた古瀬さんの姿を見て、僕もとりあえず安心する。
……笑えない、ってところまでいくと、ほんとに取り返しのつかないことになっちゃうから、とりあえず懸念はひとつ消えた。
とまあそういった感じに彼女と話していると、いつの間にか陽が暮れてきた。あまり長居するのも迷惑だろうし、適当なところで切り上げる。島松から話を聞いたら僕のほうから連絡すると約束して、僕と古瀬さんは店の前で別れた。
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