第46話 夜遅い時間に食べるフライドポテトは美味しいけど、きっと毒でもあるんだろうなってなんとなく感じる。
「……落ち着いた?」
ようやく泣き止んだ古瀬さんを、僕は駅近のファストフード店に連れて行き、適当にポテトとジュースを持って席へと戻った。
「……はい、すみません……何から何まで」
僕は店内にかけられている時計をチラッと見る。時間は午後十時。終電は一時過ぎまであるので時間に余裕はある。
「とりあえず、さ。今日は……帰って寝よ? また、明日、僕立川まで来るから。この間のお店でもいいから、そこで……ゆっくり話そう?」
気にしていないよってことを示すために、二人の間に置かれたMサイズのフライドポテトをひょいとつかみ口に含む。少し塩が多くかかった部分だったからか、ちょっぴりしょっぱい。口の中に甘みを取り戻すため、一緒に買ったメロンソーダを飲んでいく。
僕の問いかけに反応することもなく、古瀬さんは自分の膝の上に置いている両手を見つめている。その瞳は、どこかうつろだ。
やがて目の前に置いてあったウーロン茶に手を伸ばし、子犬のように少しずつ、少しずつ飲み込んでいく。
それは現実を受け入れるかのごとく、ゆっくりと。
彼女はやがてカップを持つ手を離す。俯いたままだけど、こくんと小さく頷いた。
その後、夜も深い時間になったということもあるし、目を腫らした古瀬さんを一人で歩かせるのも心配だった僕は彼女を家まで送った。
別れ際、絞り出すように言った「……ごめん、僕がしっかりしてたら」という謝罪に、古瀬さんは首を振って、
「……今日は、ありがとうございました」
とだけ言い残し家に入っていった。
失意というか、絶望というか。心の中が泥水で満たされるような気持ちで僕は自宅のベッドに倒れ込む。
「……なんだよ……なんで……こうなるかなあ……」
枕に向かって投げつける言葉はこもって、僕に跳ね返ってくる。
「……自業自得、なんだけどさ……」
ここ最近、はんとにやらかしているというか……。
そもそも綾の積極的な行動に胃がすり減っているのに、古瀬さんとの疑似デートで完全にハートブレイクして、挙句の果てに島松の事案を見逃すし。
それに全く無関係の栗山さんに当たって連絡取れなくなるし。
心のキャパが狭いにもほどがあるだろ……。
もっと、ちゃんと上手くやれたよ……。
「くっそ……」
悔し紛れに右手で僕はベッドを叩きつける。その拍子に、枕元に積んでいた漫画がバサバサっと落ちる。
「…………」
この日の僕は、それを拾い上げる気力も残っていなかった。
翌日。目が覚めると古瀬さんからラインが来ていて、「今日、午後の一時に前行った喫茶店でいいでしょうか?」とあった。僕は「いいよ」とだけ返事をして、のそのそとベッドから起き上がる。
午後一時に立川となると、あまりのんびりはしていられないか。もう十一時だし。昨日(というか今日)家に帰ったの零時回っていたし、シャワーだけでも簡単に浴びたいし、何より昨日の昼から僕は何も食べていない。
時間ないし、いいや……どうせこれからお店行くんだし、そこで食べればいっか……。
定期的になるお腹の虫を無視して、僕は熱いシャワーを浴びてひとまずスッキリさせる。適当に服を合わせてコートを着て……、
「あ……」
そういえば、マフラー、古瀬さんに貸したままだった……。
「まあ、いいか。今日言ってそのうち返してもらえれば」
そしてまた僕は家を出て、古瀬さんとの待ち合わせ場所へと向かいだす。
冬は終わりが近づいているはずなのに、首元がいつもより寒く感じた。
「っくしゅ……やっぱりマフラーないとしんどいな……」
……失ってから気づく大切なものはよくあるって聞くけど。
まさか、それを栗山さんとマフラーに当てはめる日が来るなんて、想像もしなかっただろうな……。
上着のポケットに手を突っ込んで歩く駅までの道、ときどき寒さに体を震わせつつも一歩ずつ進んでいき、上りの電車に乗り込んだ。
ここ最近、向かうことの多い立川駅。
そこに向かうのに慣れてしまうのは、あまりよい傾向とは言えないんだろうなあってなんとなく予想はしていた。
「……っくしゅ。……さむっ」
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