第39話 ここまで読んでいただきありがとうございます。……まあ、最後に意味ありげな文言捨ててきますが。
水曜日。午後二時に十分前に秋葉原駅の電気街口改札で、僕は古瀬さんを待っていた。なんていうか、まあ、世のオタクは古瀬さんみたいな女子が好みだと思うわけで(実際僕も好きになったわけだし)、そんな彼女をオタクの街に一人にするといささか不安がある。どの世界にも例外ってものは存在するもので、オタクしかいないからナンパの心配はないだろうと思っても活動的なオタクor非オタクは街を歩いている。
排除できる危険の芽は事前に刈っておくべき。そういうわけで僕は少し早めにここで待っていたというわけ。
あと、島松への予防線は「今度友達と秋葉原のメイド喫茶行くことになってさー」となんとも意味があるのかイマイチわからないものを張っておいた。もしものことがあったら土下座でもなんでもする。浮気だと思われてもしかたないことをしている自覚はあるから。
にしても。こう、モノクロファッションの野郎が多いと言うか、なんというか……僕も人のこと言えないんだけど。絶対原宿とか渋谷とか一人で歩けない。恥ずかしくて。
スマホのロック画面、お気に入りの女の子のキャラの立ち絵を見てほっこりしていると、
「す、すみません、お待たせしましたっ」
聞き覚えのある声がする。どうやら待ち人が来た、よう、だ……?
……古瀬さーん。ここがどこか理解してその服のチョイスかな? 殺す気ですか? 何をとは言わないけど。多分秋葉原を歩いている男の九割(適当)が殺される格好ですよー?
僕もしっかり殺されてから、隣にやって来た彼女を一瞥する。
まずだなあ。ベレー帽とか被って来ちゃだめだって、つい最近それ被ったヒロインのラノベが大流行したんだから。劇場版も見たけどもうキュンキュンしたよああ。それに膝あたりの長さの白茶色のチェックが入ったスカートに、もこもこしてそうな(こういう言いかたする僕の頭悪そう)白色のダッフルコートってさあ……。
これ、見せるの僕でいいんですか? 別に喫茶店行くの来週でもいいから今から島松呼んで秋葉原でデートしろよって言いたくなるようなガチっぷり。
「……古瀬さん、可愛いねって褒めたほうがいい? それとも島松呼ぶ?」
あ、やべっ本音漏れた。
「えっ、あ、か、可愛いだなんて、全然……」
はい、そう言われて照れる。お決まりのテンプレート頂きましたー。次の注文は?
「そんなことないです……」
はい赤面貰いましたー。苺みたいにポッと赤くして、ごにょごにょと否定する。もう完璧。それだけで男落とせるよ古瀬さん。覚えときな(今一人改めて落ちました)。
「ま、まあいいや。行こうか、古瀬さん」
ここで油を売ってもしかたないので、僕はそう言い目的のメイド喫茶へと歩き出した。
島松がここ最近通っているお店は、外国の宮殿をイメージしたつくりのようだ。……っていうか僕もメイド喫茶は初めてだからそれ以上はよくわからない。
少し大通りから外れたところに立地している店に入る。
「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様」
あ、はい。即理解しました。
むず痒いよう、そんなこと言われた経験ないからくすぐったいよ……。栗山さんはともかく、綾あたりが言ったら僕倒れるかもしれない。
なんかクラシカルな音楽が流れる雰囲気の店内の一角、テーブルに向かい合うようにして僕と古瀬さんは座った。雰囲気は古瀬さんも好きそう。
店員さん……ゲフンゲフン、メイドさんからメニュー表を見せてもらいながら説明を受けていると、僕は島松がここに来た理由にピンと来た。
……島松が持っているゲームとコラボしているんだ、ここ。コラボメニューあるし、全種類注文すると、限定のアイテムをダウンロードできるようになるってある。
だから通っていたんだ。
安心したよ、島松。お前が彼女いるにも関わらず他の女の子とこっそりお近づきになるようなクズじゃないってわかって。やっぱり島松は島松だったな。
ただ事前に古瀬さんに連絡のひとつはしてあげたほうが親切だったかなあ。今度会ったときさりげなく指摘しておこう。
説明が終わり、とりあえず適当に注文を済ませる。うん、説明聞いてもわけわからなかったからね。
僕と同じように初めてのメイド喫茶にわけがわからない状態になっている古瀬さんに、そっと僕は囁きかける。
「古瀬さん、わかった。島松がここに来た理由。大丈夫。浮気じゃないから安心していいよ」
そう告げると、彼女はパッと瞳を輝かせ、
「そ、そうなんですね、よかったぁ……」
と安心したようにため息をついた。
勘違いは、していないはずだったんだ。
今回は、もう大丈夫だって。思っていたんだ。
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