第36話 普段連絡が来ない人から通知が来ると大抵ろくなことにはならない。
年が明け、期末テストも終わって春休みが始まった。四月から、僕は三年生、栗山さんは四年生になる。というか、この春休みから栗山さんは就活が始まるはずなのだけど、そういう素振りを一切見せないのは大丈夫なのだろうか? 実はいいところの一人娘とか、そういうパターンはないよね?
即売会から帰って疲れのあまりベッドにダイブしようと思ったけど、直前で踏みとどまって正解だった。なんでしょう、栗山さんと綾の二人には、よそのお宅にお邪魔する際の最低限のマナーというか、ルールを知らないのだろうか。せめて僕にラインのひとつやふたつ送ってもいいんじゃないかなあって。
まあ、きっちりお説教しましたが。……年上だろ、栗山さん。
春休み中は、僕がもう終電が無くなる時間までバイトをいれないで下さいと懇願したことも効いて「バイト帰りに」僕の家に泊まっていくことはなくなった。
……普通に週に一・二回は「えへへー、きちゃった」って無邪気な笑顔を浮かべて敷居をまたぐことに変わりはないけど。ほんと、就活しなくていいのか?
ただ、ありがたいことに、って言うとなんか変な気もするけど、栗山さんはどこかに行こうよとか、連れて行ってって言うタイプの女の子ではなく、ただ一緒の部屋にいてのんびりするだけ。……なんか、世の男性たちは色んなところにデートに連れて行っているらしいけど、この人はそういう願望はないらしい。一度栗山さんに「どこか行きたいところとかないんですか? いっつもここ来てますけど」って聞くと、
「上川くんがいるところかなあ、えへへー」
なんて言う。……これで出会いがもう少しまともだったら萌えていたが、残念ファーストエンカウントは限りなく最悪だった。いや、仮に萌えたとしても、栗山さんのことだから「だから就職先も上川くんのおうちがいいかなあ」とか言いだすだろうからやっぱり萌えない。
というような感じに、(付き合ってはいないものの)僕と栗山さんは、たまに冷酷なツッコミを入れることはあるにせよ、仲の良い友達のような関係性にひとまず落ち着いていた。
いつか聞こうと思っていた「どうして僕を好きになったのか」という問いは、まだ聞くことができていない。なんか、このままなら害もないしいっかなって気になってしまったんだ。だから放置。
あと、大学生が春休みの時期は、高校生は三学期があるため、僕が家にいる時間に対して綾と会う時間の割合は減少した。その代わりといってはなんだけど、たまに遊園地とか映画館に連れて行ってとお願いされることが増えてきた。言ってしまえば、クリスマスのようなお誘いが増えてきたってこと。
僕にとっては寧ろこっちのほうが胃痛の種というか。
いやマジでね。大学生が女子高生と付き合うのは危ないんだって。オタク界隈では小学生とか中学生を嫁とか言うとロリコン認定されることが多いけども(個人差あると思いますよ?)。
世間一般的に見ればリアル女子高生が恋愛対象になるのも十分ロリコンだ。
もしもしポリスメンで即右手がお縄についてしまう。あ、ここでロリコンとは正しくは十二歳から十五歳を対象としたっていう議論は受け付けない。そういうきちんとした話はここじゃなくて学会かなんかでやってください。僕は国文学専攻だけど、そういうものは研究対象にもしてない。
……要は、綾の行動をどうすればいいか、僕は非常に困っていた。
適当にあしらってはいるけど、なかなか諦めてくれない。なまじっか幼馴染として縁があるから、ひどいことを言って仲違いをするのも気が引ける。
「はぁ……」
採点バイトの丸付けを淡々と進めつつ、僕はため息をつく。
昨日の日曜日も、綾に誘われて今度は江ノ島に行った。いい加減断ろうかと思ったけど、どういうわけか綾も僕の「お友達」の名前を知っているみたいで「今日はちょっと用事が」と言いかけると「……よっくん? 知ってますからね?」と笑顔でこっちを直視してくるからもう怖い。え? 僕何かした? そんな腕の二・三本へし折ってやろうかみたいな目をして言わないで欲しかった怖い怖い。
「きっと、栗山さんの入れ知恵なんだろうけど……」
即売会以来、あの二人なんか仲良くなったからなあ。未だに意味不明なんだけど。絶対綾は仲良くしないだろって思っていたら、まあまあ(栗山さんが綾に)懐いているというか、姉妹みたいというか。栗山さんなんか犬みたいなところあるからなあ。茶髪だから尚更ね。
赤鉛筆でサラサラ採点をしていると、スマホが音を鳴らした。
「ラインか……どうせ栗山さんが今日ひまー? って……って?」
通知画面を見て、僕は持っていた赤鉛筆を落とした。
「……ふ、古瀬さん……?」
ラインを送ってきたのは、元片想い相手兼相談相手の、古瀬さんだった。
次の土曜日、お時間いただいてもいいですか? 島松君のことで、ちょっと……。
そこはかとなく、いやーな予感がした。
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