第32話 幼馴染の年齢差は、場合によっては致命的なくらい弟妹にしか思われない。
〇
十二月二十九日。年の瀬も迫った冬のある日の夕方。私、池田綾は幼馴染のお兄ちゃん、よっくんの家に突撃していた。
今年の夏、お盆の時期によっくんの家に行った際、言いにくそうな顔で即売会に行くと告げた雰囲気から、何か知られたくないものを買っているに違いないと踏んだ。調べたところ、即売会では成年向けの同人誌もそれなりに出ているらしい。
……きっと、よっくんもそういうのを買っているに違いない。クラスの男子だって、水着の女の人が写った雑誌を回し読みしていたり、聞いたこともない女優さんの名前を言いあっては盛り上がっている。どういう女優さんかは、さすがにこの年になれば嫌でもわかるけど。
高校生でそれなら、大学生のよっくんだって、きっとそうなんだ。
幼馴染として、よっくんがどういうものを買ったか、把握しないと。
そういうつもりで、よっくんの家のインターホンを鳴らしてから、鍵を開け部屋に入った。
「よっくんー、お邪魔します……」
けど、中に暖房は全くと言っていいほどきいておらず、まずそこで違和感を覚えた。
「出かけてますか……?」
お風呂に入っているわけでもないし、トイレの電気もついていない。コンビニに行くくらいなら暖房を消していく必要はないし、出かけちゃったみたいだ。
「いや、待って?」
そう結論づけようとした私だけど、部屋の光景を見て考えを改めた。
「妙に……部屋がきれいになってる……?」
普段よっくんはそんなに家を汚くするタイプの男の人ではない。きちんと整理整頓もするし、掃除機だってまめにかけている。だけど、今の部屋は、いつも以上にきれいになっていた。
「……まさかっ」
私はお風呂場に向かい、自分が立てた疑念を確信に変えようとする。
「……少し匂いがきつい洗剤の香り……」
間違いない。よっくんはもうこの家の大掃除を済ませている。
台所に移動して、さらにそれを確認する。
換気扇、ガス周り、シンク、最後にトイレも見てみたけど、どこも掃除したての綺麗な状態だった。
「高円寺の実家に帰った……? いや、それならよっくんのお母さんから話が私に来るはず……!」
ということは。
「よっくん……私から逃げるために、どこかへ行ったの……?」
……出した結論は、それだった。
そこまでして、私に知られたくないようなもの買っているのかなあ……。ちょっと悲しいよ、私……。
「でも……今日はよっくんの家に泊まる気でいたから……どうしよう……」
今日ここで泊まって、即売会に行くよっくんについて行ってっていう計画を立てていたのに……。うーん……。
「とりあえず、寒いから暖房つけさせてもらおう……」
エアコンのスイッチをつけて、私はよっくんに電話をかけようとする。
今、どこにいるかだけ聞くために。きっと文字を送るだけだと未読スルーされちゃうから意味がない。
無料通話のボタンを押しかけたそのタイミングで、インターホンが鳴った。
「……宅配便かなあ」
私はスマホをテーブルに置き、玄関へと向かう。
「はーい」
「かーみかーわくーん……ってあれ? 幼馴染ちゃん。どうしてここに?」
「……栗山さんこそ、どうして来たんですか?」
扉を開けると……よっくんをたぶらかそうとする悪い
髪の毛茶色に染めているし、顔小さいし、唇の色素薄くて可愛いし、ツインテール似合っている上に笑顔がほんわかしているってこの
……しかも、この
「わたしはね、えへへ……バイト終わったからちょっと寄ってこうかなって」
だらしなく表情筋を緩ませて言う栗山さんの様子を見て、少しムッとくる。
……なによ、年上だからって、よっくんの家に泊めさせてもらえて……。よっくんもよっくんだよ……。年上とか、同い年だったらホイホイ泊めちゃうの?
私も同い年だったら、簡単に泊めてくれたの?
考えるだけ無駄だってわかってはいるけど、そう思ってしまう。
「……とりあえず、帰ってください。ここは栗山さんの家じゃないんですから」
よっくんには使わないような低い声で、私はのほほんと立っている彼女にそう言った。
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