第31話 これから彼女が遊びに来る友達の家に遊びに行ったときの敗北感と申し訳なさってないよね。

 そして迎えた、三日目の前日。僕は一日分の着替えを大きなバッグに詰め込み、栗山さんからもらったマフラーを巻いて家を出発した。

 鍵を閉めつつ、周りに誰もいないか確認する。……ここ僕の家なのに、どうして空き巣みたいなことをしているんだろう……。

 綾も栗山さんもいないことを把握して、僕は友人の島松の家に向かいだした。


 島松の家は、山手線の円の東側にある、月島つきしまにある。かの有名な豊洲とよすが近くにある場所で、なおかつ即売会の会場まで電車で数分、なんなら歩いて行ける距離だ。

 裏を返せば、島松はえげつない距離を大学通学に使っていることになるけども。

 そういう立地の関係もあって、僕は島松の家に行くのは初めてだった。大抵、大学の友達の家に行くのって、大学の近くにあるからであって、遠いとなかなか行かないんだ。ちなみに僕もあまり友達が家に来ない。星置曰く、大学から遠いそうだ(気持ちはわかる)。

 三階建ての小綺麗なアパートに着き、二階の角部屋のインターホンを押す。ここまで綺麗だと、きっとドアチェーンもついているんだろうな。僕もここに引っ越そうかなあ……。

「お、上川―、いらっしゃいー」

「ごめんね急に、ありがとう島松」

 僕の片想い相手の片想い相手で、今はその古瀬さんと付き合っている系イケメンの島松が、なんとまあ惚れてしまいそうな格好で僕を出迎えてくれた。……え? 部屋着? それとも外出用? どのしろ何ですかその雑誌のモデルが飛び出しましたみたいな服のセンスは……まっ、眩しい……!

「まあ、とりあえず上がりなよ」

 と、一人で茶番をかましていると島松にそう言われ、慌てて僕は現実に帰って来る。部屋に上がらせてもらい、いそいそと彼の後をついていく。

 部屋自体も僕の家より全然綺麗だし広い。1Kは僕と同じだけど、部屋の広さが違う。何畳だこれ……。

 家でのんびりゲームをしたいという発言からうかがえる通り、ゲームが好きな彼のテレビ台の下には、たくさんの据え置きゲーム機が置かれている。

「さすが、クリスマスにお家デートして彼女ゲットした男の部屋はゲームでいっぱいですね」

「ははは……そういえば古瀬さんも言ってた、『ゲームたくさんありますね』って」

「ひとつやふたつならまだしも、何世代も前の据え置きあればそう思うよ。しかもかなり綺麗に使っているし」

「テレビの前の座椅子、使っていいよ」

「どもども」

 僕は言われた通り、荷物を置いて座椅子に座らせてもらう。あ、なんか人を駄目にする椅子かもこれ……。

 ふと、白や黒のハードが並ぶなかに、ピンク色のコントローラーが置いてあるのが目に入った。

「……あのピンクのコントローラーって、もしかして古瀬さんの?」

 そう尋ねると、島松はちょっと恥ずかしそうに微笑みながら、

「う、うん……自分の家じゃもう使わないから置いておいてくださいって」

 と言う。……惚気させたのは僕だけど、いざ聞くとなると辛い……。

「じゃあ、結構古瀬さんここに来ているの?」

「週に一回は来ているかな……年越しはここで一緒にする予定だよ? どっちも実家遠いから帰省しないみたいでさ、年末年始は」

「……ごめんな、そんな日の直前にオタクが泊まりに来て」

 なんか、試合にも負けたし勝負にも負けたような、そんな気持ちになった。

「いや全然いいって、一人でいてもゲームしかしないし、むしろ誰か来てくれたほうが好都合だからさ」

 ……見た? 今の答え。模範解答だよね、なんか……僕って何だろうって思っちゃった……。

「けど、即売会行くために近い場所に泊まるって、上川もガチだったんだな」

 ……まあ、ガチはガチだけど、理由はそれじゃないんだよなあ……。絶対に言えないけど。恥ずかしくて言いたくない。

「ま、まあね。あ、だから明日は朝四時くらいにここ出るから」

「オッケ―、わかった」

 なので、まあ少し不本意ではあるけど、島松にはガチだからここに来たと思ってもらうことにした。いいのかそれで。

 それから、僕と島松は半日くらいゲームをして遊び、近くにある弁当屋の弁当を食べて一夜を明かした。結局ゲームしてんじゃん。

 そして翌日朝四時。

「島松、ありがとな。あとごめん、今日だけ服置かせて。帰りにまた回収しに来るから」

「ああ、いいよ」

 僕はバッグを背負って、即売会へと出発した。


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