第29話 あけましておめでとうございますって言いながら更新する話はクリスマスっていかれていると思う。
「……さっきはごめんなさい、もっと気を付けるべきでした……」
洗濯機のスイッチを押してから、僕は部屋に戻り栗山さんに謝罪する。
「ううん、し、仕方ないよ……わたしも言えばよかったよ」
お互いなぜか正座しつつの反省会、これがクリスマスの夜を共に過ごした男女の朝ですと言って誰が信じてくれるのだろうか。意味深だなあ……。
「それにしても……イブの夜に連絡なしに僕の家に来るとは思ってませんでしたよ……」
「えへへ……上川くんを驚かせようと思って……いきなり来ちゃったけど、失敗だったね……インターホン鳴らしても出なかったから、電話もしたんだけど」
「え?」
栗山さんの一言で、僕はこれまでさほど意識に入れていなかったスマホの存在を思い出した。僕は画面をつけて、そこそこ溜まっている通知を遡る。
あ……。
午後九時過ぎに、栗山さんから三回、不在着信がかかっていた。
綾と話していたときに感じたバイブ、栗山さんからの電話だったのか……!
「けっこう粘ったんだけどね……繋がらなかったから待つことにしたんだけど……」
電話に気づいていれば、もっと早く、一本や二本早い電車に乗れた……。そうしたら……。
「それにね、ちょっと最近寝不足気味でね、それがたたっちゃったかなあ」
「もしかして、寝不足の原因って、あのマフラーだったりします?」
僕はテーブルに置いた箱を指さし、そう言う。
「あれ? 開けちゃったの? ちゃんと渡したかったけどなあ。うん、そうだよ、首元寒そうだなあって思って、頑張って作っちゃったっ。えへへ」
栗山さんが自宅で夜遅くまで、僕にあげるマフラーを編んでいた。その様子を想像するだけで、少し嬉しいものがある。言うと調子に乗るから言わないけど。
「どう、かな?」
「……ありがとう、ございます。大切に使うんで」
「やったー」
座ったまま両手を上にあげて喜ぶ栗山さん。その体勢を取ると、着ているジャージに体のラインが映るんだって今着けてないんでしょ自重して自重。そ、それなりにあるんだから……。
僕は視線を部屋の隅に逃がし、
「……それで、どうしますか? この後。って言っても服がないでしょうから洗濯終わって乾くまで帰れないと思いますが」
「じゃあさじゃあさ、上川くんっ」
すると、栗山さんは僕の部屋の空気を柔らかくするような、満面の笑みを浮かべ、こう言った。
「今からでも、クリスマスっぽいことしよっ?」
その瞬間、彼女は置いてあったサンタの帽子を被る。そして。
「メリークリスマスっ、上川くんっ」
両腕を目一杯広げた栗山さんは僕の身体に飛び込んできて──
それを、僕は軽やかにかわした。
「いだい」
僕がさっきまで座っていた場所には、うつ伏せで倒れているせっかちなサンタクロースがいた。いや、もう二十五日だからせっかちではないのか。サンタさん、今年のプレゼントは何ですか?
「そこは素直に私とハグする場面じゃないのかなー? ひどいよ上川くーん」
起き上がって唇をとがらせ抗議するサンタ。帽子が少しずれて間抜けに見えるのがまた面白い。
「忘れないで欲しいんですけど、別に僕と栗山さんは付き合っているわけではないんですよ? こんなに頻繁に泊めていたら僕も感覚が狂いそうですが」
「そこは感覚狂っていいんだよ?」
「……とにかく付き合ってもいない男女が簡単にハグとかしちゃいけませんいいですね?」
「上川くんって、ガード固い」
それいつか綾にも言われた気がするなあ、おかしいぞ? 僕は至って当たり前のことを言っているだけのはずなんだけどなあ。
「で、クリスマスっぽいことって、何するんですか? まさか、ハグがその第一弾なんて言わないでしょうね?」
「あっ」
……やばい。余計なこと言った。急に栗山さんの目が輝きだした。
「クリスマスなら仕方ないよね? 上川くんっ」
さっきとは違い、距離を詰めてから飛び込もうとする栗山さん。
……やっぱり、ちょうどいい感じにはならないのかなあ。元気だと僕のツッコミが大変だし、元気ないとそれはそれで色々大変だし。
この先輩に、中庸って概念は存在するのかなあ。とにもかくにも。
まずこのサンタクロースの処理をどうにかしないと。あと、冷めきっているであろうファムチキの処遇も、考えないと。クリスマスは、まだしばらく続きそうだ。
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