第18話 人によってはお酒飲まなくても酔っ払う人がいるからほんと、注意しないと危ないよ。
「冷めちゃうまえに、食べて食べて」
ニコニコと両肘をテーブルに立てて、手で頬を押さえる栗山さんは僕に食べるよう促す。
「そ、それじゃあ……いただきます」
僕はスプーンでふわとろに仕上がっている卵の部分を切り、一口オムライスをパクリと食べる。
「どう? 美味しい?」
「……お、美味しい……です」
く、悔しいが僕が作るのより断然上手い……。ケチャップライスもほどよい味だし、卵は見た目通りの食感で……。
「栗山さんって料理得意、なんですね……」
「お、初めて上川くんに褒められたような気がするよー、えへへー」
褒めると調子乗りそうだからほどほどにしておこう。
「それじゃあ、わたし冷蔵庫にあったチューハイ貰っちゃうねー」
栗山さんは嬉しそうに立ち上がって台所へと向かう。
「上川くんも何か飲むー?」
「僕はいいです、好きなの飲んじゃっていいんで」
「はーい」
そうして彼女はアルコール3%のチューハイをひとつ片手に部屋に戻ってきた。
「じゃあ、お言葉に甘えて飲んじゃいまーす」
缶を開ける音がプシュっと心地よく広がり、その余韻が消える前に栗山さんは桃のチューハイを一口飲む。
そういえば栗山さんってお酒強いのだろうか……? お酒飲むところ初めて見たからまだわからないけど。
まあ、さすがに一缶開けて酔っ払うってことはないと思うけど……。
なんて、思っていました。
僕が作って貰ったオムライスを平らげるころには、栗山さんもチューハイ一缶開け終わっていたが。
「かーみかわくーん……えへへ……あたたかいー」
その頃には僕の予想を完全に悪い方向に裏切った栗山さんが出来上がっていて、僕の膝の上に顔を猫のようにこすりつけていた。ちなみに両手は僕の腰にまきつけられている。
「ちょっ、栗山さん……何やっているんですか、離してくださいよ」
「えー? いやだなあ……あったかいのにー」
僕にしがみつくような形で体をくっつけてくる栗山さん。……そ、その、今日の朝電車で感じたのよりも激しい密着度なんですが……。
「栗山さん、もしかしてお酒かなり弱いんですか?」
「へー? そうだよー? いっつも飲みに行ったりすると、乾杯のいっぱいめで体フラフラになっちゃうーえへへー」
……まさかとは思うが。
「あ、あの……念のため聞きますが、家、帰れます?」
「どうだろうーわかんないやーえへへー」
駄目だこれ。えへへーの数が増えている。完全に酔っぱらっているよ。
「まあ、きっと上川くんが泊めてくれるから安心かなあーえへへ」
……こっ、この先輩、こうなることを見越してお酒を飲んだというのか……!
「だっ、駄目です今日は泊めませんよ。酔って電車に乗れないなら今日くらいだったらタクシー代出しますし、第一、二日続けて外泊だなんてそんな」
「えー? 上川くんは……泊めてくれないの……?」
栗山さんは真っ赤に染まった顔を僕の目前に持ってくる。ほっ、ほんと外見は可愛いからこんな至近距離に近づかれると否が応でもドキッとしちゃうからやめて欲しい。
そして。相変わらず手は僕の腰にしがみついたままだから、そんな状況で顔と顔とがくっつくと。
そ、その……栗山さんの、小さくも大きくもない女性のふくらみのようなものが僕に当たってますますドキドキしてしまう。
「ちょっ、栗山さん近い近い、あ、あの、当たっているんで少し距離とってくださいっ」
「えー? 何が当たってるのー? かみかわくんー」
上目遣いでこちらを見る栗山さんは、少しニコッと笑みを浮かべてさらに体をくっつけくる。
「っ──ぼ、僕をおちょくるのもいい加減にしてくださいっ!」
たまらず僕は栗山さんを押しのけてしまう。すると、
「しまっ」
つい力を入れ過ぎたからか、彼女の身体が思いのほか軽かったからか、予想以上に先輩ははねのけられてしまい、近くにあったテーブルにぶつかってしまう。それだけならよかったのだけれども、テーブルの上に置いていた飲みかけのお茶が入ったコップがはずみで倒れてしまい……。
「ち、ちべたいっ」
先輩の髪の毛や頬、その他諸々に、お茶がかかってしまった。
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