第11話 だからね、一人暮らししている男の子の部屋に行くときは事前に電話してあげようね。
「え? うーん、そうだなあ……俺出不精だから家でのんびりゲームとかしているくらいでちょうどいいかも」
……多分そういうところがあまりイベントのない大学生活を送る原因になっているのではないかと思います。ソースは僕。
「なるなる。島松って、じゃあどんな子がタイプなの?」
「授業前に聞くか? まあいいけどさ、まあ俺がそういう奴だから、家で一緒にのんびりしてくれる子だったら贅沢言わないよ」
これ、古瀬さん脈あるのでは……? 古瀬さんもどちらかというとインドア寄りの雰囲気を漂わせているし、なにより……。
なんか島松と古瀬さんが家でケーキ食べながらモソハンとかやって楽しそうにしている図が容易に僕は想像できる……! まさか三次元でカップリングを、しかも僕の片想い相手にやるとは思わなかったけど……。
満足のいく内容を聞くことができたところで、前のドアから先生が入って来た。
「はーい、出席取りまーす」
「じゃあ、僕席戻るね」
「おう」
僕は島松の側を離れ、さっき置いた自分の荷物の席に座り、カバンから教科書とノートを取り出した。
一限、二限と授業を受け、今日の履修している科目は全部終わった。一人になったので学食に行くのも面倒だなと思い、家に帰ることにした。
モノレールの改札を通り、まあまあ帰宅する学生でごった返すホームに入る。
適当な乗車口に並ぶと、これまた都合よく、古瀬さんの姿があった。最後尾に並んでいた彼女の隣につき、
「お疲れ、古瀬さんも今から帰り?」
「あ、上川君、はい、今日は二限だけなので」
「そっか。あ、そうそう。今日、島松に色々聞いたよ。どうする? 今話しちゃう?」
僕が彼女にそう聞くと、少しばかり悩む素振りを見せてから、
「電車のなかだとあれなので……ラインで送ってくれませんか? 連絡先知っているほうが、何かと便利だと思うので……」
と、スマホの画面をこちらに差し出しつつそう言った。
「う、うん、別にいいよ」
ああ、これが恋愛相談を通じてではなかったらきっと今頃僕は浮かれていたのかもしれないけど。
きっと業務連絡くらいにしか使えないんだろうなあと、内心涙を流しながら僕もスマホの画面をつけて、古瀬さんのQRコードを読み取った。
なんか、友だち登録の友だちが、本当に友達で終わるんだろうなあって思わされて結構悲しかった。
古瀬さんと高幡不動駅で別れ、京王線に乗り換える。八王子に向かう下り電車に乗って、すぐに終点の京王八王子駅に到着。適当に駅近のコンビニでお昼ご飯を買って家へと帰る。もう怖くて家の近くのコンビニ、しばらく行きたくない。
ガチャガチャと鍵を開けて、大して外と変わらない気温の家の中に入る。
「うう、寒い寒い」
帰るなりすぐにエアコンのスイッチを入れ、洗面所で手を洗ってから買ってきたお昼ご飯を食べる。
見た限り、栗山さんが置いていったのはあの部屋の隅に置いてある紙袋だけ、かな……。もうちょいなんか置いていったんじゃないかと思ったけど、さすがに僕の気のせいだったようだ。
──私の服の匂い嗅いだりしないでね?
ほんの僅かな間だけど、その紙袋の中に何が入っているのか気になってしまった。
いかんいかん。一人暮らしの悪いところでたよ? 今。落ち着け。朝も言い聞かせただろ? アウトだって。アウトだから。見るのもアウトだから。これでスリーアウトでチェンジだね。
お昼も食べ終わって、在宅の採点バイトの仕事を少し進めて、きりがいいところで前々から書いているゼミのレポートもちょびっとやる。そうこうしているうちに陽は沈んで夕方になった。
……いやあね。物事にはタイミングって奴があって。
来客されるとまずいタイミングと別にそうでもないタイミングってあるじゃないですか。
現在僕の部屋は、前者の状態だ。そりゃあそうだ。住んでもいない女性の服が置かれていてまずくないわけがない。で、そんなタイミングに。
ピンポーン。
「あれ……まだ五限終わる前だけど……栗山さん来たのかなあ」
ドアを開けに玄関へ向かうと。鍵が開く音がする。その音を聞き、僕は背筋が凍った。
「よっくん、お邪魔しまーす……」
限りなく最悪に近いタイミングで、綾はアポなしに僕の家へとやって来たのだった。
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