第3話 とりあえず、市販の薬を複数同時に飲むのはきちんと説明書読んでからな。大抵危ない。
「おっ、その顔はどうしてそれを? って顔だねー」
「……まさしくそんなことを思っておりますが事情を教えてはいただけませんでしょうか」
半ば感情を失いかけの調子で僕は彼女に聞く。
「いやだなあ、恋人候補のことはなんでも知ってるよーわたし」
「…………」
こわい。
「あっ、ちょっと本気で引かないでよ。だーかーら、別にわたしは怪しい人じゃないから」
ぼく、あやしくないよっていうひとはあやしいひとだっておそわりました。
「うーん、どうしたら信じてくれるかなあ……」
いや、信じるもなにも、仮にあなたが怪しくない人だとしても付き合う気はさらさらないです……。ああ、やっぱり僕の片想い帰ってきて欲しい……。
「もう、しょうがないなあ」
僕がずっとジト目で見つめていたからか、とうとう彼女は持ってきていたカバンから財布を取り出し、一枚のカードを机にスッと差し出した。
「わたし、善人くんと同じ大学なの」
「んんん?」
置かれたそれは、確かに僕も持っている学生証だった。しかも学部学科まで同じだし……。学年は一個上……って。
「先輩だったんですか⁈」
「うん、そだよー」
そだよーって。いや、軽いって。
「……じゃあ、昨日のことを知っているのは」
「わたしも金曜四限の近現代文学B、履修しているんだー」
とりあえず、この人……栗山先輩がちゃんとした身分、つまるところ大学生であることは把握した。
「事情はわかりました……。昨日のことを知っているのも理解しました。まあ、知りたくない部分もありますが」
どうして僕のトレジャーを知っているのか、とか。どうして僕の家にたどり着けたのか、とか。
「それで、一体何がどうして栗山さんは僕の恋人になりに来たんだーとここに来たんですか」
「もう、栗山さんなんて他人行儀な呼び方はしなくていいよー。由芽って、名前で呼んで」
「で、どうしてなんですか、栗山さん」
「むぅ、強情だなあ」
どっちがですか……。
「それは、わたしが善人くんのことが好きだから、だよ?」
「あーはい。わかりました。で、どうしてなんですか? 栗山さん」
……頭が痛いなあ。どうしてだろう。頭痛薬飲まないと。
「だーかーら、善人くんのこと、大好きだから、だよ?」
なんか増えている気がするなあ。胃薬も足すか。胃もキリキリしてきたし。
「……もういいです。なんか、何聞いても同じな気がしてきたんで」
「ね、だから、私と付き合おうよ。ちょうど失恋したばっかりでタイミングばっちりだよね?」
いや最高過ぎるタイミングで最低だよもう。
「ごめんなさい今彼女とかそういう気分じゃないので一旦お断りさせてください」
「ええ? そんなあ……」
そんなあって。よく初対面(僕にとって)の男の部屋上がり込んで大好きなので付き合って下さいとか言えますね? え、これ現実だよね? 実は僕まだ夢の中にこんにちはしてる? アニメの見過ぎで現実と虚構がごっちゃになったか。そうかそうか。それは残念だ、それなら早く夢から醒めないと……。
いや痛い痛い痛い。頬っぺたつねってみたけどこれ夢じゃなくて現実だ。なんてこった。
「……とりあえず、そういうことなのでもう帰って下さい。僕この後予定があるんで、文句があれば後日聞くんで」
「文句はないけど善人くんとまた後日話したいな、なんて。えへへ……」
「文句ないならとりあえず今日は帰って下さいって……ほんとに……お願いしますから」
実際、この後予定があるのは本当だから、帰ってもらわないと困る。
「あ、そうだよね、わかった。じゃあ、また来るから、よろしくねー」
最後に紅茶を飲み切って栗山さんはいそいそと僕の家を出て行く。
「またって……」
ああ、なんか面倒臭い人に絡まれちゃったよ……昨日今日と散々だ……とほほ。
穴に落ちていきそうなくらい元気をなくした僕は、とぼとぼと栗山さんの使ったカップをシンクに持っていく。どうせこの後すぐ晩ご飯を作ることになるだろうから、後でまとめて洗ってしまえばいいか。……僕が作るかどうかは知らないけど。
ピンポーン。
本日二度目のチャイムが鳴り響く。今度はきっと知っている人だ。予定だし。
「よっくん、お邪魔しまーす……」
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