第4話 でも実際異性の幼馴染いてもそんなに恋愛感情湧かないのが現実だよね。
玄関先からガサゴソとビニール袋が擦れる音がする。どうやらきっと今日も僕は晩ご飯を作らないことになりそうだ。
「お邪魔します……」
「うん、いらっしゃい、綾」
制服のスカートをなびかせて部屋に入って来たのは、幼馴染の池田綾。毎週土曜日は部活の練習があるみたいで、その帰りに高校の近くにある僕の家に寄ってご飯を済ませているんだ。ここから家まで一時間くらいはかかるしね。
それはいいんだけど、大体綾が作る流れになっているんだよなあ……。別に僕も自炊をしないわけではないから、料理はできる。でも、なかなか綾は僕に作らせようとしてくれない。
「……あれ、今日誰か来たんですか?」
台所に買い物の荷物を置きながら、綾はそう尋ねる。ああ、シンクにコップと三角コーナーにティーパックあるからか。
「それに……なんか覚えのない香水の匂いがしますし……」
くんくんと部屋の空気を嗅いでいる彼女は、後ろ手にエプロンを結びながら言う。
「え、ああ、うん。ちょっと大学の知り合いが来て……ね?」
まさか女の人が恋人になりに来ましたとは口が裂けても言えないけど。そんなことを言ったら綾に「よっくん、アニメ見過ぎたんじゃないですか?」って冷たい目で言われてしまう。
「そうなんですね」
勝手知ったるといった調子でまな板を置き、どんどん材料を切っていく。僕が手伝おうとすると「よっくんはテレビ見ていていいですよ」と一切何もさせてもらえないから、もう手伝う意思すら見せなくなった。
綾はどんどん手早く下ごしらえを済ませていき、これまたスムーズに戸棚からフライパンを取り出し火にかけ始める。
「今日は何作っているの?」
「外寒かったので、ちょっと辛いカレーライスにしてます」
「ちょっと、って?」
「いつも中辛しか入れてないんですけど、辛口のルーもちょっと混ぜちゃおうかなって」
まあ、確かに僕はいつも中辛を使っているから、家に置いてあるルーもそれだ。今日は辛口のルーも買ってきてそれを混ぜようってことなんだ……。
「何かありましたか?」
具材を炒めているなか、ひょこりと綾はこちらに視線を向けてくる。
「いや、大丈夫だよ、ありがとう」
「……いえいえ、これくらい、大したことではないので」
一時間くらいして、カレーライスが出来上がった。スパイスの効いたちょっぴり鼻を刺激するいい香りが部屋に広がっていく。
「できましたー」
制服エプロン姿にミトンをつけてカレーの入ったお鍋を机に持ってくる。
僕はそれを見て台所にある炊飯器を食器が並んだ机に置く。コップには一杯の牛乳を注いで、これから辛くなるであろう口の中を甘くしておく。
「ごはんの量、いつもと同じくらいでいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
僕はごはんがよそわれたお皿を受け取り、ルーをかけ始める。
「あ、そういえば今日よっくんの家に泊まっていくのでよろしくお願いします」
「っと。は?」
が、突如聞き捨てならない言葉を綾が発したので僕はルーを少しテーブルにこぼしてしまった。
「今、なんて?」
「明日、朝から学校で模試があって家から行くのが面倒なので、ここに泊まりたいんですけど大丈夫ですか?」
「ひ?」
台拭きでこぼしたルーをふき取り、気を取り直してルーを注ぐも衝撃発言は止まらない。
「いやいやいやいや。何言ってるの綾。だ、ダメだよ家族でもない男女が同じ部屋で寝泊まりするなんて簡単に言っちゃったら」
「私とよっくんはもう家族みたいなものじゃないですか」
きょとんと真顔で首を捻って、何言っているのこの人みたいな顔しない、そこ。
「た、確かに僕と綾は小学生から付き合いあるけど、今は大学生と高校生だよ? わかってるよね……そこ」
「別に、よっくんなら……」
そこ、顔を赤らめるんでない。食事前だぞ。何を想像した。いやいい、考えたくない。
「……とにかく、綾の両親にも申し訳ないからダメ」
「でも、私のお母さん、泊まるね、って言ったらいいよって言ってくれましたよ」
何故それを先に僕に聞いてくれない。僕何か間違えたこと言ってる……? ああ、もう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます