第7話 その夜
初めての授業があった日の夜、フェリルはシャノンと二人で大浴場に向かっていた。少し遅い時間ということで、ほかに人もあまりおらず、静かに入浴できそうな雰囲気だった。
しかし、男湯の更衣室に入ると、何人かの男子生徒がおり、フェリルが入って来るやものすごい顔でにらみつけてきていた。
「あの、僕何か悪いことした?」
「お前は不正入学が悪いことだとは思っていないのか?頭沸いてんじゃねえの?」
「僕の頭はやかんじゃないから沸かないよ。それに不正入学もしてないしする必要もない。」
「お前、貴族をなめてるのか。」
「君だって人をベロベロなめたりしないでしょ?僕もだよ。」
「お、お前!」
ついに激昂したのか、その貴族らしい少年は体に魔力を纏い突進してくる。それを見てもフェリルは一切表情を変えることなく、冷静に対処する。
「霊狼流体術〝弦月〟」
顔から突進してきた少年は、フェリルの後方に宙返りしながら放つ蹴り技に顎を蹴り上げられ、吹っ飛んだ。
少年は気絶し、しばらくパンイチで寝っ転がっていた。
「さて、シャノン。風呂入ろうか。」
「ああ、そうだな。」
二人は気絶している少年を無視してそそくさと風呂に入っていった。
◆
「いい湯だねー。」
「そうだな。なんでもここの大浴場の湯はちゃんと湯源から送っているらしいぞ。」
二人は大浴場の外にある、王都の夜景を一望できる露天風呂に入っていた。
「すごいねー。ほんとにここの施設って至れり尽くせりって感じ。」
「全くだ。…そろそろ体も火照ってきたし俺は上がるわ。」
「なら僕も上がろうかな」
二人は十分ほど露天風呂を楽しんで、風呂を上がったのであった。
◆
「おい君!こんなところで寝ちゃいかんぞ!まず服を着なさい!」
真っ暗な男湯の更衣室で、パンイチの男子生徒が警備員の人に起こされていた。
「…?フガッ!?」
「君、いくら初めての寮の風呂だからって少しはしゃぎすぎだね。明日から気を付けるんだよ。」
そういって警備員のおじさんは少年を置いて次の場所に向かっていった。
◆
「そういえばフェリルってどこの中等学校に行ってたんだ?」
「いや、僕は今まで学校に通ったことないよ。」
「それでその成績か…何か特別なことはしてないの?」
「特別なのかはわからないけど、十歳のころだったかな、レイラさんっていう雷鳴流の師範にいろいろあって拾われたんだ。その日からいろんなことを叩き込まれて今に至るって感じだね。」
「レイラってもしかしてレイラ=ローレンスのことか?」
「そうだよ。っていうか僕の名字もローレンスなんだから普通そうでしょ?」
「フェリル知らないのか?そのレイラ=ローレンスっていうのはこの世界の特級魔法剣士の一人だぞ!たった五人しかいないうちの一人。」
「そんなにすごいの?」
「すごいなんてもんじゃないぞ!あの人たちは一騎当千、ほかの国の軍隊と戦う時も下手したら一人で一大隊は殲滅できるといわれるくらいの人外だ!」
シャノンがものすごい勢いでまくし立ててくる様子はなかなか珍しかった。今まではダルそうにしていた分、ギャップがすごかった。
「もしかしてシャノンもその特級魔法剣士を目指しているのかい?」
「逆にこの学校に来てるやつらでそれを目指さないやつのほうが少ないぞ。」
「まあそうなのかも。…よし、じゃあ今度の休日に一緒に会いに行ってみる?」
「いいのか?」
「もちろん!僕もレイラさんに初めてできた友達を紹介したいしね。」
「約束だぞ?」
「うん!」
しっかりと指切りもしてその日は二人とも眠りについた。
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