第6話 初めての授業
入学説明会から一か月がたった今日、四月四日、ロックリア魔法剣術学院で入学式が行われた。
一般的な入学式とあまり変わらず、校長の祝辞、理事長挨拶、来賓の挨拶といった簡単なものだった。…プログラムだけは。
「皆さん、この度は我がロックリア魔法剣術学院にご入学、おめでとうございます。我々教師一同、皆様の楽しい学校生活、輝かしい夢をかなえるために精一杯サポートさせていただきます。あまり長い話はお好きではないことかと思いますのでこれで校長の挨拶を終わらせていただきます。
「学生諸君、本学院に入学おめでとう。魔法剣士の世界はとても厳しい世界だが、決してくじけるな。それだけは肝に銘じておくように。それでは理事長からの挨拶はこれで終わりだ。」
といった風に、校長、理事長ともにものすごく挨拶が短かったのだ。ちなみに来賓の方々の挨拶はしっかりとしたものだった。
入学式が終わり、次は入寮することになった。うちの学校は全寮制で、一学年約二百人ほどおり、それが五学年分、合計千人が寮に入ることになる。しかもここの寮はとても豪華で、寮の敷地だけで町一つ分くらいあった。
寮は二人一組でワンフロアという構成になっていて、三つ部屋が並んでおり、真ん中に二人の共用スペース、左右に私室という形になっている。
もうすでにそれぞれの荷物は運びこんであるそうなので、まっすぐに寮に向かう。すでに一人の男が荷解きを始めていた。
「おお、俺と同室の奴はお前か?」
「フェリル=ローレンスです。よろしくお願いします。」
「シャノン=グリフィスだ。せっかく同室になったんだからもっと気楽にいこうぜ。」
「そうだね。じゃあ、僕のことはフェリルと呼んで。」
「フェリルだな。俺のこともシャノンと呼んでくれ。」
その後は仲良くお互いの荷解きを手伝いながら談笑した。あらかた片付くと、シャノンがコーヒーを淹れてきてくれた。
「フェリル、お前今回の入試の結果知ってるのか?」
「いや、合格したことしか気にしてなかったから。」
「そうなのか?フェリル、首席だぞ?しかも今まで出したことのない実技と筆記どちらも満点で。」
「そうなのか?それはうれしいな。」
「喜んでる場合じゃないぞ。俺はお前を疑っちゃいないが他の、特に貴族の連中はお前が何か不正をしたに違いないとか噂してる。」
「まあ、それも本当の僕を見せられたら何とかなると思うよ?」
「フェリルがそういうならいいが…何か困ったことがあったらすぐに言えよ?」
「ありがとう。でも本当に気にしなくていいからね。」
そしてそのまま二人はそれぞれの私室分かれて眠りについた。
◆
「早速だが、今日は君たちの実力を図るために実践演習をしてもらう。各自戦闘着に着替えて十分後に修練場に集合しろ。」
翌朝の一発目の授業は魔法剣術基礎だった。戦闘着というのは一般の学校で着る体操服を改良し、耐久性、防御力、軽量性を兼ね備えた白を基調とする服のことだ。何気にカッコいい服で、初めて見たときはどこかの騎士団の制服かとも思った。
修練場に行くとすでに戦闘着に着替えたダグラス先生が立っていた。
「全員揃ったな?それでは各自自由にペアを組んで待っておくように。フェリル=ローレンス、君は私とだ。」
なぜか先生のご指名がかかったフェリルは仕方なく先生のほうに駆け足で向かう。ほかの生徒たちもそれぞれペアを組んで待っていた。
「それではこれから模擬戦を始める。流派の技は自由に使っても構わんが、死に至らせるような技は禁止とする。各自自分たちのタイミングで始めろ。」
先生はそう言って、フェリルと相対する。きれいな正眼の構えをする先生に対し、フェリルは体を半身にし、左手を前に、右手に持つ剣を体で隠すように提げて持つという変則的な構えをとる。
「君のタイミングでいいぞ。いつでもかかってきなさい。」
「わかりました。それじゃ、霊狼流〝
いきなり先生の目の前に現れたフェリル。先生はそれに落ち着いて対処しようとするが、目の前に見えていたはずのフェリルはいつの間にか消えており、気づくと背後から首筋に木剣を当てられていた。
「先生、これは一本ですか?」
「ああ、文句なしの一本だ。…今のは君のオリジナルだよな?」
「そうですが?」
「今度は君の習得している流派の技を見せてくれるか?俺にはやらないでくれよ?そうだな…あの丸太に向かってやってくれ。」
「わかりました。」
フェリルはその丸太に近づいていく。木剣を腰の鞘に納め、抜き打ちの構えをとる。
「烈火流〝煉獄〟」
神速の居合で丸太を上空に打ち上げ、
「風神流〝鎌鼬〟」
飛ぶ風の
「雷鳴流〝渦雷〟」
飛び上がって放った十二の刺突で片方は焦げた木っ端にし、
「水神流〝蒼龍〟」
自身を東洋の竜をかたどった魔力で覆い、もう片方に突進し粉々に砕く。
このたった数分の間でフェリルは五つの流派の技を使った。本当は霊狼流、烈火流、風神流、雷鳴流、水神流のほかにもたくさん扱える流派はあるのだが、時間が足りないと思ったので有名なこの四つとオリジナルを見せたのだ。
フェリルにとってはいくつもの流派の技を習得するのは当たり前だと思っているが、実際は不可能なことである。
というのも、普通の人間には一つの属性しかなく、もし仮に二つ、三つ属性があったとしても魔力量が足りないため、習得する余裕がないのだ。
こういった理由から、フェリルが一人で何個も何個も違う流派を見せたため先生はびっくりして固まってしまった。
「先生、これでよろしいでしょうか?先生?」
「ああ、すまない。とても素晴らしかったぞ。ありがとう。」
しばし固まっていたものの、すぐに復活してほかの生徒に指示を出す。
「全員、お互いの実力を知ることはできたな?それでは今日の魔法剣術基礎の授業は終わりにする。解散!」
『ありがとうございました!』
そうしてみんなは更衣室に着替えに向かった。
残りの授業は一般教科の国語、化学、算術、専門教科の兵法だった。特にこれといったことはなかったが、どの教科もすでに勉強したところばかりで、少し退屈だと思ったのは内緒だ。
◆
「ダグラス先生、例の生徒はいかがでしたか?」
「正直、規格外ですね。もうすでに特級魔法剣士の力を超えていると思います。」
「そこまでですか。さすがは理事長。それほどの逸材を連れてくるとは本当にすごいお方だ。」
「そうですね。私は彼が道を踏み外さないようしっかりと導きたいと思います。」
「本当にダグラス先生はまだ三年目なのにものすごいクラスにあったってしまいましたね。規格外の生徒、四大貴族のご子息、六人目の特級魔法剣士候補。大変でしょうが頑張ってください。」
学院の職員室の片隅で二人の教師はひっそりと話していた。
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