第2話 少年の実力

 二人は針葉樹が生えている森の中をどんどん進んでいった。この森はこの世界でも数少ない魔物が大量発生する危険地帯である。


 歩いているとすぐに魔物が襲い掛かってくる。それを女魔法剣士が苦も無く切り捨てて進んでいく。


「やはりここは魔物が多いな。ちょうどいい。君が次の魔物の相手をしてくれ。」


「わかった。」


 すると間もなく黒光りした大蜘蛛がやってくる。少年はその大蜘蛛の足を風の魔力を宿し、翡翠色に輝いている剣で一気に4本切り飛ばす。そしてバランスの取れなくなった大蜘蛛の体に剣を突き刺し、雷属性で感電させた。


 これにかかったのはたったの15秒だった。


「すさまじいな。少し鍛えるだけで私を超えてしまいそうだ。」


「あんまりかわってなかったとおもう。」


「そんなことはないさ。君の剣はただ属性の魔力を込めただけ。私には技がある。」


 そういって女魔法剣士はちょうど近くにいた狼型の魔物に向かって真銀ミスリルのレイピアを向ける。


「雷鳴流〝渦雷〟」


 姿がくらむほどの速度で打ち出された十二の刺突が狼を肉の塊に変える。


「これが魔法剣術というものだよ。君のただ魔力を込めて振っただけのものとへ違う、いろいろな人が編み出し昇華していった〝技〟だ。」


 その後も女魔法剣士が様々な雷鳴流の技を見せつつ、目的地へと向かっていく。


 小一時間歩いた先にあったのは小さなログハウス、それときれいに整えられた修練場のような広場だった。


 二人が近づくと中から女魔法剣士が少し小さくなったという感じの女の子が出てきた。


「レイラさん!やっと見つけたの!?」


「ああ、この子がそうだよ。あいさつしな。」


「初めまして!レイラさんの姪のエリカ=ヴァレンタインです。今はレイラさんに雷鳴流を習ってます!」


「はじめまして。えーと…」


「すまんなエリカ。この子には親がいなくてな。物心ついたころからずっと一人だったらしくて名前もないんだ。」


「そうなの!?ごめんなさいね、気が付かなくって。」


「きにしてないからいい。」


「まあ、とりあえずエリカ。この子と手合わせしてみたらどうだ?そっちのほうがお互いに分かり合えるだろう?」


「まあ、レイラさんがそういうなら…君は大丈夫?」


「だいじょうぶ。やる。」


 そうして三人は広場に向かう。


「それじゃあ今から模擬戦を行うが、殺すのはなし、あとは何でも好きにしろ。では、始め!」


 始まりの合図とともにエリカが少年に襲い掛かる。


「雷鳴流〝渦雷〟!」


 神速の十二の刺突を少年は横に飛んで避ける。この行動に少し驚いたのかエリカの動きが止まる。


「今の避けれるんだ。すごいね…じゃあこれはどう?〝雷轟〟」


 今度は一つの、しかし速さ、威力ともに段違いの一撃を放つ。対して少年は避けるそぶりを見せず、両手に持つ二本の剣に同じく雷を纏わせ同時に振るい受け止めた。


「うっそぉ!?」


 ものすごく驚いている様子だが今度は動きを止めることなく次の技を放つ。


「〝迅雷〟」


 三つの同時に放たれる斬撃も見事に弾かれる。


「〝電影〟」


 少年の背後に一瞬で回り放った一撃も苦も無く防がれる。


「〝雷閃〟」


 神速の居合は躱された。


「もうムリー!!絶対勝てない!」


「そうか、なら少年の勝利だ!」


「もうおわり?もっとやりたかった。」


「まあまあ、明日からは私も相手をしてやるから。それじゃあエリカ。負けた罰だ。少年の名前を考えてやれ。」


「えぇ!?なんで年もあんまり変わらないアタシが考えないといけないのよ!」


「負けたからしょうがないだろう?それからその子は私のところに養子って形で育てるつもりだから、名字はローレンスな。」


「あーもー。ほんとにレイラさんってば適当なんだから!」


「なんとでも言ってな。それじゃ私は先に帰ってご飯の準備をしてるからね。」


 そういってレイラはログハウスに帰っていった。


「そうねぇ、とりあえずあなたお風呂に入ってきなさいよ。すごく体も汚れてるし。」


「ふろ?」


「ああ、そうだったわね。一緒に行くからついてきて。」


 そうして少年を風呂に入れるエリカだった。もちろん一緒に入っていない。


 風呂から出てきた少年はものすごくきれいな青みがかった白髪をしていた。さっきまでいろいろと汚れていてあまりよく見えなかったが、少年はものすごく整った顔立ちをしていて、思わずドキッとするエリカ。


 少年の姿をじーっと見つめ、考える。その髪色は霊獣という普通に生きていれば見ることのできない氷狼フェンリルのようであった。


 エリカはそこから文字をとり、少年の名前をフェリルに決めた。


「あなたの名前はフェリル。フェリル=ローレンスよ。」


「ふぇりる。いい。」


「よーし、レイラさんに報告するわよ!」


 ほどなくして夕食ができ、三人で温かいシチューを食べた。初めて食べる料理にフェリルはものすごく気に入ったらしく、三回もお代わりをしていた。

 

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