第7話 訓練と偵察 後編
シミュレーターでの訓練は、AI主導で進んでいく。基本的な操縦、攻撃などを訓練するのだが……AIがやるのでランスがすることはない。なんの訓練なんだ……シミュレーターは、とても性能が良く実際に乗っている感覚しかない。攻撃もリアルで発射時の機体への振動まで再現されていた。いや、再現と思えないくらいの感覚だ。
基本の動作が確認できたところで、偵察モードの説明が始まった。ミサイルポッドを偵察用のモジュールに変更するか、筐体ごと変更することで高度な偵察が可能になる。超超望遠が可能なレンズを搭載した高感度カメラと赤外線、電波を観測できるモジュールが一体化していて、それぞれのデータを集約し解析することで映像だけでなく、目に見えない部分なども映像として可視化して表示される。
偵察で取得できたデータは、データリンク機能で他の戦闘機や戦闘指揮所にも共有できた。データを元に最適な攻撃方法をAIが作成し、指揮所やパイロットが承認する形で実行される。偵察やデータリンクの機能では、こちらのほうが先んじていた。
レーダーは、宇宙空間ではデブリや小惑星が多く、実質的に使い物にならない。惑星の大気中では、物質は大気の抵抗や惑星の引力によって、浮遊できないが、宇宙空間では浮いているものが多すぎる。更に、レーダー探知のために電波を全方位に放射することで自らの位置を知らせる結果になってしまう。
映像で判断するか物質から放射される電磁波、赤外線を捉えて目標を特定するか、ドローンを接近させて見ることのほうが確実な認識方法だ。
偵察モードの訓練も、見ているだけで終わってしまった。訓練の終わりをAIが告げる。
「訓練は、終了です。これで、明日から戦闘機乗りとして活躍されることを期待しています」
AIらしくない言葉にランスも言葉を返した。
「AIというのは、お世辞も言えるんだな」
「多様な言葉も学習しております。お世辞という感覚はございませんが」
AIの返事が終わると操縦席が開き、ヘルメットのバイザーに表示されていた画像も消えた。ランスは、ヘルメットをとりながら、今までの宇宙空間の映像を思い返していた。
「いい経験だったよAI。早く宇宙にでて活躍したいな」
ランスの言葉に、AIの返事はなかった。ランスは、操縦席から出て外からシュミレーターを眺めていた。
「新入隊員に連絡する!現時点で訓練が終了した隊員は、中央通路を進んで右手側にあるミーティングルームに向かえ!」
突然、館内のスピーカーから放送が行われた。これも、新入りへの通過儀礼なのか?突然の指示に驚きながら、ランスも通路奥に向かって走りだしていた。少し前には、同じように通路を走っているアイリが見えた。
「あいつも一緒か」
通路を走りながらアイリの後ろ姿を追いかけていた。
通路の先に、仕切られた部屋がいくつか見えてみた。放送の通り右手側にも部屋があった。先頭を走っていた隊員が、その部屋に入っていったので、同じ部屋に駆け込む。部屋に入ると、中央の壇上に着古した戦闘服を着た、見るからに屈強そうな隊員がいた。
走ってきた隊員が後からも次々と部屋に入ってきて、みな息を切らしていた。その様子を見ながら壇上の男が声を発した。
「新入りにしては、早かった。自分は、戦闘機隊ガハト隊隊長のシュルム・ガハトだ。突然だが、敵新鋭艦の極秘情報を入手した。これから、偵察隊を編成して出発する。一緒に行ける奴は、この中にいるか?」
突然も突然な話だ。今、訓練が終わったばかりだ。訓練というよりも入隊したのも、ほんの数時間前の事だ。
「我々は、たった今訓練が終わったばかりですが、いきなり実戦なのですか?」
ランスは、みなを代表するような形で自然と言葉が出ていた。
「そうだ。訓練で学んだようにAIが全てやってくれる。心配するな。他の作戦も同時進行中で、人手が足りないんだ」
ガハト隊長は、隊員達を一人一人見ながら返答した。まるで、品定めをするような目線だ。
隊員達は、突然の展開に驚き、戸惑っていた。訓練をするのと実戦に参加するのは雲泥の差だ。躊躇するのは、当然の事だ。
「新入りに期待したのは間違いだったようだ。作戦開始までの時間は、それほど余裕があるわけではない。準備があるので、これで失礼する」
ガハト隊長は、隊員に最後の言葉をかけながら壇上から降りる。緊急事態なのは、本当のようだ。
その様子を見ていたランスは、隊長のほうに走りながら声をかけた。
「自分は、参加します。いえ、参加させてください」
ランスには、シミュレーターで経験した宇宙という新しい世界への冒険が目の前にある事を感じたのかも知れない。最初に宇宙に飛び出していった人類も同じように、緊張と不安、希望や夢が同居した複雑な心境だったのかも知れない。
他の隊員も、ランスの行動を目の当たりにして、次々と隊長のほうに走っていった。その中には、アイリの姿もあった。
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