第6話 訓練と偵察 前編

 訓練センターの中に向かうと、内部にはシミュレーターと思われる機体が建物の内部に整然と配置されていた。真ん中の通路を挟んで左右に配置され、同時に十人以上が訓練できる大規模な設備だ。


 そのような光景を、今まで見たことがない隊員達は呆然と眺めていた。

「ランスじゃない?ランスも、入隊したの?」

 突然、ランスに話かけてくる女性がいた。声の方向に顔を向けると戦闘機隊には向かないロングヘアのアイリがいた。幼馴染でちょっと騒がしいくらい元気な娘だ。

「アイリ?なにしてんだ?ここは、お前がくるような所じゃないぞ」

 ランスは、こんな場所で幼馴染に会う恥ずかしさから、突き放すように言葉をかけた。

「なに言ってるのよ。AI技術が認められて軍のほうからスカウトされたんだから!」

 ランスは、びっくりしながらもアイリが昔からコンピュータとかそういう方面に強かったことを思い出した。

「そうなのか。でも、戦場に向かうことになるんだぞ。いいのか?」

「危険な時は、ランスが守ってくれるんでしょ?」

「そんな暇は、ないと思うけどな」

「もしかしたら、私のほうがランスを守るかも知れないね」

 そう言い残して、アイリは知り合いの方に向かって小走りに駆け出していた。シミュレーターを目の前にして、緊張していたのがどこかに飛んでしまっていた。


 館内のスピーカーから事務的に、次の指示が通達された。

「シミュレーターの前に番号順に整列。先頭の者はシミュレーターに搭乗」

 全く説明もないままに、整列を行い先頭の隊員は搭乗していく。

「無茶苦茶だな。なんの説明もないんだな」

 ランスは、不満顔で不平を漏らしていた。突然シミュレーターに搭乗して、操縦できる人なんていないだろう。基本的な知識、操縦方法など座学で勉強してからシミュレーター訓練に移行するのが一般的な訓練方法だ。


 それとも、先にシミュレーターに乗せることで、自信を喪失させてから座学に入るつもりなのだろうか?意気揚々と入隊してきた若い隊員の鼻っ柱を折るには、ちょうど良いかもしれない。


 整列するとランスは、2番目の位置だった。色々と考えている暇はない。先頭の隊員が数分で出てくる。その顔は、不思議な物でも見たような顔で、自信を喪失したり、逆に自信をつけたような表情でもなかった。


 ランスは、シミュレーターの操縦席の中に入っていった。自動的に操縦席は、閉鎖され一瞬だけ暗闇になったかと思うと、次の瞬間に前方と左右のモニターが一斉に点灯した。

「ヘルメットを装着してください」

 操縦席内に音声が響いた。左に置いてある黒く金属質なメルメットを被り、バイザーを下ろした。その瞬間に目の前には、シミュレーターの外の映像が表示されていた。

「私はシミュレーター用AIです。これから、訓練を開始します。基本の動作は、全て私が担当します」

「えっ?おれ?おれは、何もしない?」

「はい。搭乗者は音声で指示を出すだけです。実際の動作はAIが担当します」

 目の前の映像が、宇宙空間の映像に変わっていた。機体も連動して、細かく動きだした。もう、訓練は始まったようだ。しかし、自分が操縦しない訓練というのは訓練なのだろうか?そんな事を考えながらも、目の前の宇宙空間を飛んでいる感覚をランスは体で感じていた。

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