会議室の中に入るとそこにはすでに何人もの憲兵が丸い楕円形のテーブルを囲むような形で座っていて、その後ろに1人ずつ憲兵が座っている。おそらくテーブルを囲んでいるのが隊長格の憲兵で後ろで静かにしているのが僕と同じような一般の憲兵なのだろう。隊長はもう迷いなく右側の入り口から近くもなく遠くもない、なんとも表しにくい微妙な位置に座った。僕は隊長の真後ろに座る。

 隊長が座るやいなや、左隣の女性憲兵が隊長に話しかけた。

「ローラン大尉、どうも、珍しいですね2人で来るなんて。しかも見たことない子が来ている。彼は?」

「どうもフィガロ大尉。彼はシャルル=アルノース。階級は少尉です」

 隊長が僕のことを紹介するので、僕はそのフィガロ大尉に会釈をしておく。

 するとフィガロ大尉は立ち上がって僕の周りを一周した。そのあと僕に近づいてきて……色々と目の遣り場に困るのだ。彼女の制服の胸がはちきれそうな程である。このまままっすぐ前を向いているわけにもいかないので少し上を見て、警戒しているような表情を作る。

「この子ってあの『子守歌』の子?」

 フィガロ大尉が隊長に尋ねる。

「ええそうです」

「ふーん、やっぱりブルムの言う通りの子ね」 

 この人ブリジットさんと知り合い? もしブリジットさんとフィガロ大尉が本当に知り合いだったとしたら世界ってとても狭いもんだよ。

「あー、フィガロ大尉。うちのシャルルを持ち帰らないで頂けないだろうか」

 ここで、隊長が口を挟んできた。ある種の助け舟であろうか。

「……人を節操なしのように言わないでいただきたい」

「あなた、気に入った子を見つけてはいつもいつもお持ち帰りしちゃってるじゃないですか。フィガロ大尉が裏でなんて言われてるかご存知ですか? 『セックス魔』ですよあなたの渾名? あまりにも不名誉過ぎません?」

「知ってますよ『セックス魔』の渾名くらい。でも別に男の子とヤりたくて声かけているわけじゃなくて、男の子と飲みに行ったら自然と襲っちゃって気づいたらヤってただけですよ? 大抵朝になって裸で隣に年下の男の子がこれまた裸で『あ……やらかした』ってなるオチなんです」

 それはそれで大問題では? ていうか普通に軍をクビになっていてもおかしくないレベル。

「もうフィガロ大尉も良い年なんですから私はもう何も言いませんが、シャルルに手を出すのはやめておくことをお勧めしますよ? なんていったってシャルルはあのジャンヌ=ロミュの幼馴染みにしてジャンヌがぞっこんな男ですから」

 しれっと爆弾発言をかましてきたのは隊長。

「あー、それはもう修羅場になっちゃうなぁ。地雷っ子だったかぁ」

 フィガロ大尉はフィガロ大尉で納得してしまった。これはこれで良いのか? なんだか釈然としないモノが僕の中に残ってしまった。



 やがて会議が始まり、1人ずつ延々と分厚い報告書を読み上げていく。まぁ退屈ったらありゃしない。しかもどの憲兵もやたらめったら報告書が分厚く、しかも余計な修辞が多い上に憲兵の職掌を明らかに超えている情報も含まれている。

 あれか? きっとこういう風にして勤務時間を潰してテキトーに一日の業務を終わらせる気なのか? もしそうなんだとしたらこの国の憲兵ジャン=ダルムリーは相当腐った組織であると言わざるを得ない。

 ヤバいな、だんだん眠くなってきた。こっそり欠伸をしてなんとかごまかしごまかし起きているが、だんだん限界がやってきて、今は太ももをつねって僕の睡眠欲求をなんとかごまかしている。

 それでもだんだんごまかせなくなってきた。 

 ヤバい。このままだとガチで……ねお……ちし……ちゃう。





 突然、何か脊髄に衝撃が走った。

 なんの衝撃かしらと僕はこっそり辺りを見回す。するとフィガロ大尉が杖を後ろ向きに持っているのに気づいた。

 フィガロ大尉が僕が寝てしまいそうなのに気づいて魔法で起こしてくれた?

 あとでお礼を言った方が良さそうだ。

 フィガロ大尉がこっそり微笑んでくれたような気がした。

  

 まだ報告は続く。隊長の番まであと数人のところまで来ている。

 腹に響くような重低音が聞こえた。なんだろう。爆発音? ズーンって感じで、耳で音として感じるというよりもむしろ体全体で揺れとして感じるような音である。


 その瞬間、ボロボロの衛兵が思い切りドアを開けた。確かに、ここには憲兵が集まっているわけだから正しい判断だろう。

「お、お、王宮が……攻撃を受けています! 門はすでに突破されています!」

 それはそれは衝撃的だった。もちろんこんなことを考えるのはレスプブリカとその手下である。

「シャルル、おいシャルル! 大丈夫か!」

 隊長の声で気を取り戻した。

「はい、隊長!」

「フィガロ大尉も行けますか?」

「ええ、大丈夫ですよ?」

「よし、シャルル、殺傷制限は解除だ。怪しい連中は片っ端から殺っていけ。あとは俺とフィガロ大尉についてきてをお守りするだけだ。できるな?」

「はい、できます」

 僕は隊長の指示に力強く、かと言って力んだらしちゃって空回りしないように落ち着いて返事をした。

「よし、シャルル、俺についてこい。フィガロ大尉も行きましょう」

 隊長が先頭で僕たち3人は未だ衛兵の報告に呆然としている他の憲兵ラ=ブランシュたちを他所に真っ先にそのに対する忠誠を形にするために会議室を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る