Ⅹ
「うふふ、シャルル様♪ 無事で良かったです。退院なさるまでわたくしロゼットがつきっきりで介抱してさしあげますね♪」
ロゼットがとびっきりの笑顔で言う。そういえばこの子もエルミーヌの弟子なんだっけ……つまりはめちゃくちゃ夢見がちということ。どうして我が家には夢見がちなメイドが多いのだろう。
因みに一番弟子はリザだったりする。ああいう子が一番夢見がちなんだよね……本人に言ったらめちゃくちゃ怒って火のついたタバコを腕に押しつけてくるけど。
「あ、今シャルル様他の女のこと考えていらっしゃいましたよね? ダメですよ? わたくし以外の女なんて……っていうのは流石に冗談ではありますが、ジャンヌ様か、メリッサ様かわたくし以外の女はダメですっ。」
ロゼットがめちゃくちゃ束縛するようなことを言ってくる。
「シャルル様は早くジャンヌ様とセックスの1つでもなさってくださいませ。そうすればメリッサ様が怒り狂ってジャンヌ様とメリッサ様でシャルル様を巡る争いになります。そうやって1人の男を巡って2人の女が争っているところにわたくしがシャルル様の愛のおこぼれをいただくのです!」
うん、本人の前でそんなことを言うのはやめようか。普通に恥ずかしいし、枯れてるわけじゃないしね! 普通に居づらくなるから。
ロゼットってこんな子だったっけ? なんだか退院までがものすごく怖いのだけれど。
「そ、そういえば、家族は?」
僕は話題を変えることにした。
「……」
「ロゼット?」
「まぁ、旦那様も奥様もそれはそれはものすごく心配してらしていました。わざわざジャンヌお嬢様は直々に旦那様に電話をなさったのです。メリッサ様はそれはそれはもう倒れ込んでしまうほどでございました……」
ロゼットか慈母のような表情を見せる。
「……心配かけて済まなかったと伝えておいてくれ」
僕はロゼットを直視することができない。
「いろんな方があなたのことを心配なさっているのです。どうかご自愛ください」
「……善処する」
僕は後ろを向いたまま返事をする。
「……善処じゃ困るんですよっ!!」
突然ロゼットが声を荒らげた。そのまま乱暴に僕を仰向けにして僕に抱きついてきた。
「えっと……ロゼットさん?」
「……善処じゃ困るんですよ……わたくしも含めてメイドや執事って主人の前で泣いてはいけないのです。どんなに辛いことがあっても常に平静を保たなきゃいけないんです! 大切な人が無事に帰ってきても、普段通りに丁寧な礼しかわたくし共使用人には許されていないのです。感動に身を任せて抱きついたりとか、目の前で泣いたりとか、決して許されないのですよっ! 本当に分かっていらっしゃるのですか!」
ロゼットは本気だった。さっきまでの下ネタと自分の性欲の連発は何処へやら。今にも泣き出しそうである。
僕は何も答えることができない。
「自分の身くらい自分で守ってください。あなたが死んでも悲しめない人だっているんです」
「うん……ごめん」
僕はロゼットの髪を撫でた。
「ちょっとちょっとー!! ロゼット!! あんた抜け駆けはなしって言ったでしょうがー!!」
そこに勢いづけて扉を開けて乱入してきたのはなんと先輩だった。
今日は休暇ではなかったっけ?
「あっ……えっ? ひょ、ひょっとして……お取り込み中だった?? あは? あはは」
だが、先輩はロゼットが僕に抱きつきながら泣いていて、それを僕が慰めているという構図を見て乾いた笑いを見せた。そのまま先輩は後退りして、ゆっくりと静かに扉を閉めた。
「ご、ごゆっくり楽しんでね?」
なんかめちゃくちゃ誤解されてない?
「ちょっ……先輩! そこで扉を閉めんといてください! ていうか先輩には今すぐ尋問が必要なんです! 戻ってきなさい!」
ついつい僕は大声を出してしまう。しまった、ここは病院だった。ロゼットが僕を責めるように僕の脇腹をつねってくる。やめてくださいごめんなさい僕が悪かったから痛い痛いやめて?
先輩はそろりそろりと扉を開けて、中に入ってきた。
「えーっと、この後、エルミーヌに借りた小説によるとそういうことが始まっているんだけどいいの? もしかして見られたい系の性癖?」
いや、何言ってんの先輩は? ていうかエルミーヌゥゥ!!
「先輩がウチのエルミーヌからどんな小説を借りたのかは知りませんし興味もありませんが、話ごあるとはそういうことではありません。取り敢えずそこに直って下さい」
「え? ひょっとしてシャル君怒ってる? 邪魔しちゃったから?」
「ええから直れそこに!」
「はい分かりました直りますから捨てないで」
先輩はその場に背筋を伸ばして直立不動となった。いや、まぁ、先輩のことを捨てはしないけどね。
僕は咳払いを一つする。
「もういいです。先輩に単刀直入に聞きます。先輩は今回の件に関して
「……ええ、言ったわ」
先輩は静かに答える。その目は『全然単刀直入じゃないじゃん』と言っているようだった。
「じゃあなんで僕にそもそも『子守歌』を使わせたんですかあのとき! あの時使うなの一言で僕は今頃病院にはいなかったし先輩が必死になって王都の病院まで僕を連れてくる必要はなかったんですよ!」
「……はい、ごめんなさい」
「で、なんでなんですか?」
「その方が手っ取り早いと思ったからです。ごめんなさいロゼットさんもめちゃくちゃごめんね」
先輩は素直に頭を下げた。
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