Ⅸ
その後先輩は僕を無理矢理病院に連れて行った。僕はあまり病院が得意ではなくあまり行きたくないのだが、先輩は拘束した連中の移送をリュシーに投げつけて、無理矢理僕を車に乗せてノールを離れた。
唯一解せないのがリュシーがニヤニヤしながら「この後お楽しみですかぁ〜」などと言いながらテキパキ指示を出したことだ。解せぬ。
それはそれとして、確かに身体は未だ怠く、だんだんと熱っぽくなってきているが、ほっとけば治るようなもんだろうに、先輩はやや焦っているような様子を見せている。
「何なんですか……そんなに慌てて……あとどこの病院連れて行くんですか?」
僕は先輩に聞くが、声を出してみていかに自分が深刻な状況にあるのかを思い知らされる。さっきまで普通に立って声も出せていたのに……
「シャル君はもう黙ってて、さっき少し甘ったるいお香の臭いがしなかった? あれねぇ、魔法を行使した人間を探知してその人に入り込むタイプの
先輩が丁寧に説明してくれる。まぁ、確かに思いつかない話ではない。乾燥させたり粉末にした
ならなんで僕にわざわざ魔法を使わせたんだ? こんなに必死になって僕を病院に連れて行く羽目になるならあの時に使うなって言えばよかったのに……
僕は考えるのに疲れてしまったのだろうか……体力が明らかに落ちてしまっている。
先輩は必死にハンドルを握っている。僕はそのまま意識を手放すことにした。
僕が目覚めるとそこは知らない天井だった
よく使われたセリフではあるが実際目覚めてみると知らない天井、まぁ、どこかの病院であることは確かであるが。
僕は取り敢えず起き上がってみるがまだ頭が重くてクラクラするのでそのまま枕に逆戻りしてしまった。
いやあ、目が覚めても誰もいないというのは……ここどこよ? 枕の上で頭を動かして辺りを見回すが窓らしきものはない。つまりは時間もわからない。部屋の中には僕が寝ているベッドとサイドテーブル、見舞いの人が座ると思われる背もたれのない木の椅子が数脚だけ。せめて時計くらい置いてあってもいいものを。壁には絵がかかっている。夜のバーの前にて誰かを待っているかのような、ノースリーブのワンピースを着た少女の絵である。通りを歩く人の姿がぼやけて描かれているので少女の待ちぼうけている感じが伝わってくる。あとワンピースの丈が短くてあざとい。
まぁ、それはそれとして、大人しく誰かが病室に入ってくるのを大人しく待っていると突然ノックもなく扉が開いた。
まさかノック一つせずに入ってくるとは夢にも思わず、びっくりして扉の方に顔を向けるとなんと隊長だった。
「なんだシャルル、起きてたのか」
僕は起き上がろうとするがそのまま枕に逆戻り。
「無理するな、そのままでいい。医官はしばらく絶対安静が必要だと言っていた」
「では、失礼します……医官ということはどこかの軍病院ですか?」
「そうだここは王都中央軍病院だ。何故かジャンヌはブレスティアではなく王都の軍病院に連れてきた。ブレスティアの方が近いのに」
「そうですか……調査の件はどうなりました?」
「調査? ああ、あれか。あれはなぁ……取り敢えずレスプブリカと
「そうですか。まぁ、どちらにせよ有力な研究施設を奴らは失ったわけですし、しばらくは派手なことが出来ないでしょうな」
僕がそう返事を返すと隊長は何か考え込んでいた。
「……んん? ああ、そうだな。それにしても、あれが調査だったのか。俺はもっと平和的なのを想像してたぞ? 最早ヤクザのカチコミみたいだったって聞いたな」
しれっと酷いことを言う……いや、まぁ確かに半分カチコミだったけど。
「そうか……シャルルもそっち系だったか……」
何か隊長の中で納得したらしい。
「そういえば先輩は?」
「ん? ああ、ジャンヌ? 今日は流石に休みを取らせてる。流石に疲れたらしいなあいつも。ああ、泣き疲れたか」
んん? 泣き疲れた?
「そうそう、ジャンヌ真っ先に本部に戻ってきてな、俺に泣きながら言うんだ、『シャルルが起きない! 身体が熱い!』って、お前、シャルルを車にほってきたのかよって思ったけど、取り敢えず王都中央軍病院につれていけって言っといたんだ」
「はぁ、ありがとうございます……幼馴染みがお騒がせしてすみませんでした?」
「あはは! 別にいいんだけどな、まぁ後でちゃんとお礼言っておけよ」
そう隊長は笑った。
「んじゃ、俺もそろそろ戻るから、まぁ、入院生活も大変だとは思うがせいぜい頑張れよ」
隊長はニヤニヤしながら出て行った。
扉の外で声が聞こえる。
話しているのは隊長と……ロゼット??
ノックをして懐かしい顔が病室に入ってくる。
「おや、シャルル様、大分良くなられたようで」
そこには僕の予想通り、メイドのロゼットがそこに立っていた。
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