#4 The Pageant and parade
#4.1 Vendredi
Ⅰ
街には雪が舞い、道路にはうっすらと雪が積もっている。暖炉の火は明るく、暖炉の前では先輩が毛布に包まっている。
「寒い……寒い……」
「全然仕事にならないですよね」
「シャル君は寒くない訳? 私寒すぎて仕事が手につかないんだけど」
「そんなことないですよ。寒い寒い言うて手とかガチガチですもん」
そう言いながら僕はカサカサの手を先輩に差し出してみる。
先輩が毛布から手を出して僕の手を揉む。「シャル君、手カサカサね。あんまり良くないわよ? 手を乾燥させると」
「いや、そうじゃなくて、手、冷たいでしょう?」
「私も冷たいからよくわからない?」
「それ、やばくないですか?」
「はぁ、外寒いわ、
会議で外に出ていた隊長が戻ってきて、途轍も無い高級品を軍の
「
そう、電気冷暖房機はようやく発売に漕ぎ着けた、まだまだ一般に浸透していない高級品なのだ。だから、まぁ、ただの男爵家であるうちの実家に無くても何もおかしくないのだが。
「
流石侯爵家、お金の使い方が違う。あと侯爵閣下、腰が痛いのでしたら
「凄いな、家にあるのか……こっちは会議室にあるというだけで喜んでいるのに……」
隊長が愕然としている。会議室にはあるのか、意外。
「あ、でも、魔水式とか、魔石式の冷暖房機なら安く上がるのでは?」
「俺はシャルルが1日に4、5回近く外に魔水とか魔石を買い出しに行ってタンクに補充してくれるなら構わないが」
あ、無理ですね。そもそもこの寒さで外に出るなんてどうかしてる。悪者の寒さで事件を起こそうとしないのか警察から呼び出しの電話は一切かかってこない程だから。
「それにしても、このまま寒さが続くと『建国記念日』の軍事パレードが大変なことになるぞ」
「ああ、そういえばもうそんな季節……やだ、わたし休む」
先輩が毛布から顔だけ出した。
「休むって……有給は取れないことになってるぞ? 多分参謀長の性格からして寒さのため中止なんてことにはならないだろうし」
「じゃあわたしは留守番で……」
先輩は再び毛布に潜り込んだ。
「俺が外に? まぁ、考えとくけど」
「僕は外で警備は確定ですか?」
「……諦めろ」
「……そうですか。せいぜい中止になるのを祈るだけですね」
「無理だな、参謀長は絶対にやる。参謀長はとにかくパレードが大好きらしい」
「……現場の考えは? 行進する側からしたらただの迷惑ですよ?」
「まぁ、考えてないんだろう」
隊長がため息をつき、体をのばす。そのまま1枚の紙を取って電灯にかざした。
「来週土曜リハーサルで日曜日に本番だそうだ。金曜日の準備は夕方の最終準備だけ……5時からだから4時集合でいいか」
「じゃあ金曜日は半休ですね」
「え? 休み? シャル君! 休み?」
都合の良いところだけ先輩は聞き逃さず毛布から顔を出す。
「先輩……現金ですか」
「何よ? 文句があるなら寒波に言いなさいよ」
「まぁ、パレード自体は上手くいくだろう。あとは寒波次第だな、ジャンヌが動くかどうかは」
「ねぇ、シャル君、寒い。もう帰りたい」
先輩は制服のポケットの中の携帯熱魔石を握りながら僕に不平を言う。因みに今日はマントを着用している。動きづらいけれども……
結局、寒波は今日……金曜日になっても去ることはなく、少し弱まったとはいえ依然として厳しい寒さが続いている。
「寮ですか?」
「バカ、実家に決まってるじゃない」
そうでした、この人の実家には電気冷暖房機があるんでした。流石侯爵家、忘れてました。
「ダメですね」
先輩が純粋な瞳で僕の方を見る。だからといって有給は取れないですよ?
「でも、よく考えてください。今日は12月の20日です。このパレード警備の任務が終わるのは明後日の12月22日、つまり……」
「つまり?」
「この任務が終わったらそのまま冬の休暇です」
先輩はあまり嬉しくなさそう。
「……寒波がどこか行って暖かくなったら損した気分じゃん」
「誰にも予測できませんよ? 天気は」
「クラーナ区、西ロッド区、下セニア区は集合してください」
係員が僕たちを呼んでいる。
「おー、シャルル、ジャンヌ、こんなとこにいたのか。こっちだこっち」
隊長として別のブリーフィングを受けていた隊長も僕たちを呼んでいる。
「先輩、行きますよ」
「……わかった」
僕が先輩を促すと、先輩は不服そうについてきた。
ブリーフィングには20人弱集まった。クラーナ区の区憲兵が3人しかいないのがおかしいのであって、普通はもっといるのだ。まぁ、それはそれとして、ブリーフィングでは当日の役割についての説明があった。僕たちはパレードの見物客の後ろから怪しい人物がいないか見張っている役割である。
「めっちゃ寒いやつじゃん」
先輩が呟く。確かにパレードが始まる前から終わるまでずっと通りに立っていなければならない上にポケットに手を突っ込んでおくわけにもいかないのだ。
「ええ、当日は先週からの寒波の影響で厳しい寒さとなることが予想されます。そーこーでー‼︎」
壇上で僕たちに説明をしてくれているブリジット=ブルムと名乗る瓶底メガネをかけ、長い髪を恐ろしく手間をかけて編み込んだ(おそらく)
「皆さんに今からお配りする上着には、羽毛を詰めておきました。プルーシャン地方産の高級品です。暖かさは羽毛が証明してくれています。しかも! その上着は皆さんに差し上げます!」
「っっったぁぁぁあ!!」
先輩がらしくない歓声をあげた。珍しい。そんなに寒かったのだろうか。
「嬉しいですよね、嬉しいですよね、大変でした上と交渉するの。ふふふ、頑張った甲斐がありました。ふふふふふふ」
そのブルムさんもキャラが変わっているような……見た目だけだったら
「よくやったわブリジット!」
先輩が叫んだ。まさか……知り合い?
「こら、ジャンヌ……」
先輩の隣で黙って聞いていた隊長が注意するもすでに遅く、名前を呼ばれたブルムさんは先輩に気づいて顔に満開の花を咲かせた。
「え? あ、ロミュじゃないですか。私ロミュ寒がりだから有給取るとばかり思ってました。やったあ、ああロミュに着ていただけるなんてもう私ブリジット=ブルム感動です!」
ブルムさんもキャラが崩壊してるし。ブルムさん、貴女今壇上にいるのですよ? そんなところで再開を喜んでいる場合じゃないですよ? 一方隊長は天を仰いでいる。
「この2人は……喋り出したら止まらんのよ」
「えーっと、サイズを教えてください」
因みに先輩は隊長に、ブルムさんは彼女の上官にそれぞれ怒られている。
「試着もありますよ」
需品科の兵士が言う。めっちゃガタイの良い野郎には言われたくないけど、なんか、かわいい店員のお姉さんに言われたくない? 普通。
「あ、じゃあ借りて行きますね」
僕は3つのサイズの試着用の上着を持って行く。
「先輩、隊長、上着の試着です」
「「あ、うん」サイズは?」
先輩と隊長がそれぞれ試着用の上着に袖を通す。それから一通り腕を回したりして、先輩はミディアム、隊長はラージに落ち着いた。
「はい、わかりました。じゃあ上着を受け取ってきますね」
「ああ、よろしく」
隊長はそう言って、先輩への説教を再開した。そんなに……もっと説教しなくてはいけなかったことがあるような気もするけど……普段から溜め込んでいたのだろうか。僕は例の
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