第9話 彼女はベタに愛されている
「す、
「そ、そうでございますね……」
こ、これはかなりまずいことになった気がしてきましたよ……。
私はただせおりんの恋が少しでも前進してくれればと思って
どうしてよりにもよって私が
「そ、それにしても凄い埃っぽいね……殆ど使われてないのかな……?」
「む、昔は部室として使われていたらしいが……」
無言なのは悪いと思って話は振ってみるけど、お互いどこかぎこちない。せおりんの手前仕方なかったとはいえ、前に話を途中で打ち切って逃げたから怒ってるのかな……?
秋ヶ島先輩に掃除をするよう依頼された場所は、クラスの教室の半分もないくらいのサイズで、本当に物置き専用といった場所だった。
壁には空の本棚がいくつか並んでいて、奥には埃の被ったパソコン、長机やパイプ椅子があり、床の隅には沢山のダンボールが堆積している。
「と、取り敢えず箒で大まかなゴミを回収して、雑巾で汚れを取っていくとするか」
「そ、そうだね……私もそれがいいと思う」
とにかくあまり長くこの空間にいる訳にはいかない、幸い
用具入れを開けて
「…………」
それにしても……どうして季松(すえまつ)くんは秋ヶ島先輩の所にいたのかな。
知り合い……は流石にあり得ないだろうし、そうなるとやっぱり『恋の後押し』をしてくれる情報を得ようと思って『依頼』をクリアしに来たってことだよね……?
つ、つまり好きな人いるってこと……!? こ、これは一大事ではありませんか!?
もしかして
「夏目さん……? さっきから箒が空を切ってるんだけど」
「えっ!? あ、ご、ごめん! 空気中の埃を取るのに夢中で」
「それは窓を開けた方が早いと思うけど……」
あわわ……い、いったい
き、訊いてみたい……でももしせおりんじゃなくて違う子だったら……う、ううん! それならそれで無理やりせおりんに振り向かせるようにするだけだし!
依頼を早く終わらせたい気持ちと、両想いの可能性に頭がぐるぐるしてくるけど、私はそっと深呼吸をして
「あ、あのさ……秋ヶ島先輩って何か不思議な人だよね」
「? ま、まあ……そうだな……掴みどころがないというか、人の秘密を何でも知っているっていうのはそれだけで不気味だし」
「明高にいる人のことなら全員知っているって噂だもんね……でもそれを使って悪巧みをしようって話でもはないのは安心だけど」
「うーん……あくまでその事例が一度も無かったってだけで、今後はどうなるか分からないと思うけどな……何なら学校転覆なんて考えているかもしれないし」
「へっ? じゃ、じゃあ私達はいずれ秋ヶ島先輩の物言わぬ傀儡になって教育委員会と闘うことになっちゃうの!?」
「え、厨二病なの」
やっぱり秋ヶ島先輩はちょっと危険な人物なのかも……で、でもせおりんを応援するって決めたし! その為なら私は最後は秋ヶ島先輩のコントロールを抜けてせおりんを守ってみせるよ!
「でも実際秋ヶ島先輩を嫌っている人は多いというか、生殺与奪の権を握られているみたいな感じで皆怖がっているよね」
「よくそんな言葉知ってるな」
? あーその言葉は前せおりんが貸してくれた本に書いてあったからかな? 難しい本だったから意味を調べながら読んでいたし……。
「それなのに皆秘密が知りたがるなんて変だよね」
「依頼の危険性も分からないのによくやるよ。まさか倉庫代わりに使っている教室を掃除してくれだなんて思わなかったけど……」
「でもそれは
「ぐうの音も出ないな……」
ふふふ……上手く話題を振れたお陰でやっと本来の目的へと辿り着く。さあ! ここから私は攻めていくよ!
「……でもそれは夏目さんも同じだろ」
「う……そ、それはそうだけど……」
しかし呆気なくカウンターを受けてしまってたじろいでしまう、そ、そりゃそうなるよね……私だって今ここにいるんだし。
「…………」
「…………」
ようやく少し会話が出来るようになったのに、私が墓穴を掘ったせいでふりだしに戻ってしまった……もう何やってんの私!
しかも
「うう……」
窓を拭きながら、恨めしく彼を視線で追ってしまう。
このままじゃ掃除が終わっちゃうよ……そしたら
こうなったら……もう思い切って訊いちゃった方がいいかも……。
依頼をクリアすれば(そもそもまだ私は秋ヶ島先輩に何も言ってはないんだけど……)せおりんの恋の指南はして貰えるかもしれないけど、彼の本音までは分からない訳だし……。
よーし……と私は心の中で意気込むと、少し緊張しながら口を開く。
「あ、あのさ、
「――――夏目さんってさ、好きな人いるの?」
「へえぇっ!?」
あまりに予想だにしなかった死角からの攻撃に狼狽えた声を上げてしまう。
ま、まさか
唐突過ぎる事態にパニックになる――あれ……でもよくよく冷静になると秋ヶ島先輩の所に行くなら普通『誰か』じゃなくて『自分』の好きな人だよね……。
で、でも私は今好きな人とかいないし……でもそのまま言えば今度は『じゃあ何の為に?』って話になってしまう、こ、ここは上手く機転を利かせないと……。
「す、
「う……そ、それはそうだが……でもさ、秋ヶ島先輩が何故別々に依頼しないでわざわざ俺と夏目さんを一緒にして依頼したのかが気になって――」
「そ、それは――……!?」
あれ、これヤバくない? もしかして私が
そ、それは絶対駄目! 確かに顔は悪くないと思うけど、好きになるほどお互いのことをまだよく知ってないし……。
それにこの状況ですら不味いのに、これがせおりんの耳に入ったら私は殺される、四肢を引き裂かれてチップシュレッダーに放り込まれて家畜の餌にされちゃう……。
「す、
「うおっ! 危ない!」
焦っていたせいか、誤解を解こうと慌てて詰め寄ってしまい足を踏み出し私は、濡れた床に足を取られ、前のめりになって身体が地面に叩きつけられそうになる。
でも、運が良かったというべきなのか、しゃがんでいた季松(すえまつ)くんが目の前にいたお陰で倒れる寸前で身体を受け止めてくれる。
ただ――必然的に私と彼は密着した距離感になってしまった。
「だ、大丈夫か……?」
「う、うん……あ、ありがとう……」
ああ……こ、これはベタなことやっちゃったなぁ……
は、早く離れて弁明をしなきゃ……と、急いで身体を起こそうとしていると、何やら外から声が聞こえることに気づく。
『何か音がしたけれど……こっちかしら?』
聞き馴染みのあるその声に、私は一気に冷や汗が吹き出す。
それはまさにベタの連鎖、同時に天国へのカウントダウンであった。
「せ、せおりん……? 何でこんな所に……」
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