最終話 首都陥落
首都ウッドワイドでは、将軍ミニングアックと、飛鳥ノ国の君主フィンレンソンの息子であるホミニンが国旗を掲げて占領したことを宣言した。
「皆の衆。きょうのこの日持って、余の父君の国であることを宣言する。皆の衆、余の前でひれ伏し、ホミニン様どうぞよろしくお願いします、と頼むのであれば、なにも悪いようにはしない。ここは平和の国飛鳥となった」
ミニングアックがホミニンの頭にガツンとゲンコツをぶち込んだ。
「あ、イタッ。なにをするか将軍。余は君主フィンレンソンの息子であるぞ」
「バカ言いなさんな。ウッドワイドの住民に誤解されるようなことは言うんじゃない。首都の住民が別に平伏さんでも、悪いようにはしない。それが我が国のルールです。彼らは兵士ではない。生活は守らねば、野蛮な国とのそしりを受けますぞ。そしてそれが、あなたの父君のご評価に影響されます。民の信頼を得られぬ国のリーダーは、国を内から滅ぼします」
「そ、そんなことわかっとるわい」
「父君が登城されるまで、あなた様がここの総督を務めるのですぞ」
「そんなこともわかっとる!」
この日から先、街じゅうのあちこちで飛鳥ノ国による占領を宣言する旗が立てられた。不安そうにしていた住民たちもとくに危害を加えられることもなかったので、今までどおりの生活を送った。
ガードリアスは首都ウッドワイドに入る前に近くで駐屯している飛鳥の兵を見て立ち尽くした。
飛鳥の兵に止められたが、友達がいることを説明し、武器を預けてから、城の中へ入った。中では、兵士らがあちこちに飛鳥の国旗を立てて、占領を宣言している。ざわざわした喧騒の中に見知った顔を二つ見つけた。
オルヴィスとフリーダだった。
「おーい!」ガーリアスは手を振った。「オルヴィスー! フリーダー!」
騒めきで聞こえなかったみたいだが、何度か呼びかけると二人はほとんど同時にガードリアスを見つけた。
「あ、オマエ、ガード!」
ガードリアスは人混みを避けて二人のところへ走った。
「オマエ、まさかこの戦に参加していたのか?」
「ゴメン。僕はこの戦に参加していないよ。除隊したんだ」
「…ふうん、そうなのか。けど、謝る必要はねーよ。だよな?」とフリーダに振った。
「そうだよ。死なないでこうして会えるだけで感激だよ」
喧騒を離れてから、ガードリアスはここにこうしている経緯を初めから二人に語った。同期のモンペレが除隊してから、自分は一つの戦に加わり、そこで地獄の光景を見たこと。人殺しが怖くなったことなど。そして二人を知っているコソ泥老婆にも会ったこと。そして、自分は盗まれる事態を阻止したこと等。
「別にいいんじゃね?」オルヴィスはいつもの軽い調子で親友の選択を肯定したた。「そこまでイヤなら、続ける必要はねぇーよ」
「オルヴィス。君の言うとおりだったよ。今なら言える。ライナ村での君の徴兵拒否は、正しかった。僕が甘く見ていた。国のため、と言って徴兵を受けながら結局は除隊しているんだから逃げたに等しい」
「オレが正しいかどうかは知らねぇけどさ、そこまで深く考えて除隊したんなら、逃げたとは言わねぇと思うぜ。内輪から見たら逃げたように見えるかもしれんが、言わせたいヤツには勝手に言わせておけよ。どうせもう会うこともねぇんだろうからよ。逃げないでそれが立派な兵士だと思い込んで、戦場で死んじまう方がバカ野郎だよ。この世は生き残った者が勝ちだ。命あってもの物種だぜ」
「そうだね。ところで、なんだか大変なことになったね。飛鳥ノ国に首都を落とされるなんて…」
「市街地をめちゃくちゃにされるとか、そういうことはねーみたいだよ」
「節度はあるみたいだね。飛鳥ノ国の兵士たちは」
「なんか偉そうにしているデブにそばにいるミニングアック将軍ってのが素晴らしいと評判なんだよ。そのデブってのが、殿様の息子らしくてな」
「ところで殿様で思い出した。イヌハギ様はどうなったんだ?」
「いらぬ犠牲を払うことなく降伏したとして飛鳥ノ国のフィンレンソンに評価されて、洞ノ国のお殿様とは違って打ち首は免れたらしいよ。これからは家臣の一人として重職が約束されているみたい」フリーダが答えた。
「…へえ、そうなんだ。別に興味ねーけど」
「ようするに、わたしたちはこれから仙ノ国の住人ではなく、飛鳥ノ国の住人になるってことだね」
二人が思いつきそうもにない話題に、オルヴィスとガードリアスはぽかんとした。
「そこまでは気づかなかったな。なるほど。オレたちはこれから飛鳥の民になるのか。まぁ、どっちでもいいや」
「偉い人たちは国が変わったら、苦労するかもしれないけど、民にとっては、よっぽど横暴なヤツじゃない限り、毎日やることは一緒だよね」
「そうだ。働いて、食って、寝て、また働いて、食って、寝るだけな」
この日は、ガードリアスは宿を見つけて、旅の疲れがある中、夕食が済むまでオルヴィスやフリーダと話し込んだ。話は尽きなかった。
占領からしばらく経ったある日のこと。
オルヴィスはマスターから森へ行って木こりとしての腕を見せて欲しいと言われ、近隣の森へ出かけた。しかし、森へ入ったすぐに、違和感を感じた。
「マスターも人が悪いなぁ。この森は多分、何人も立ち入ることを禁じられたリニエラ神のいる森です。立ち入ることはおろか、木を伐採するなどもってのほかです」
リニエラ神というのは、森林に宿っている神である。
「試すようなことをして済まなかった。だが、どうしてわかった? 誰かから聞いたのか?」
「逆に聞きたい。マスターはこの森になにも感じないのか?」
「深い森だなぁ、ってことくらいかね。オマエさんは?」
「まず、入った瞬間に、ムッとした匂いが鼻に入ってくる。それと、なんとなく足を踏み入れることを躊躇させる厳かな雰囲気。地面を徘徊する目に見えない虫たちもソワソワしているのを感じる。なにより居眠りしている木々が時々目を覚ましてにらんでくる」
「…なるほど。オマエさんにはそこまでわかるか」
「一応、木こりだからな。森には慣れてる」
「オマエにオノを譲りたい」
「マジか? ありがてぇ。イヴァルディのオノなんてサイコーじゃん」
国の名称が変わっても、オルヴィスはフリーダ、ガードリアスの日常は続く。
(了)
不戦の誓い3 早起ハヤネ @hayaoki-hayane
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