第12話 ウェイトレス

「私もやりたいんですけど」

シファカがカフェ『雨宿り』にてきびきび働いているのを見て、フリーダがマスターに申し入れた。

「お嬢ちゃん可愛いもんなぁ。ありがとう。アンタが手伝ってくれるなら、シファカと二人でいい看板娘になりそうだ。…フールム。この子にも仕事を教えてやってくれ。制服も忘れずにな」

 初めて制服というものを着たフリーダは今まで着たことのない可愛い服に有頂天になった。このまま制服を着たまま外へ飛び出したい気分だった。

 この日一日、フールムの下で仕事を教えてもらった。仕事中、お客さんに、可愛い子がまた入ったね〜」とか「お嬢ちゃんの推しになったよ」とか冷やかされたが、悪い気分ではなかった。

 閉店後、フールムが総括した。

「いいね、フリーダ。オルヴィスよりも物覚えがいいし、接客態度としては、申し分ないよ」

「オレと比べてんじゃねぇーよ」

 近くにいたオルヴィスはすかさず切り返した。最近になってようやく慣れてきたからこそ、初めてにしてはテキパキと動くフリーダの姿から目が離せなかった。自分で見ていても勉強になった。

 二人同じ仕事をさせてもらってからしばらく経ったある日、常連客の一人が興奮した調子でマスターに話を振ったのを、オルヴィスは耳にした。

「なぁマスターよ。俺、洞ノ国から来た商人から話を聞いたんだが、洞ノ国が飛鳥ノ国に滅ぼされたらしいぜ」

「洞ノ国が? あそこはつい前までこの国とやりあってたじゃないか」

「その機に乗じた、ていうか油断をついたって話だ。元々飛鳥に服従しないっていうんで、狙われてたからな」

「お殿様はどうなったんだ?」

「首都が陥落する前に数人の家来を連れて逃げたらしい」

「最悪の君主だな」

「この国も危ないかもなぁ」と客が他人事のように呟いた。




 洞ノ国の滅亡からおよそ一月後。今度も衝撃的なニュースが飛び込んできた。

「マスター、今度は飛鳥ノ国はこの国にも侵攻してくるそうだよ」客の一人が興奮しながら話した。

「ホントかい?」

「こんなことでウソなんかつくかい。いま、続々と周辺の町や村を占領しながら、首都ウッドワイドを目指しているらしい」

「おいおい。うちの店は大丈夫かよ」

「逃げたってどこにも逃げ場所がないもんなあ。村や町が占領されているっていうし、ここは首都だからなあ」

 オルヴィスは話に加わった。

「お、おい、おっちゃん、いまの話マジか? …イヤ、いまの話本当ですか?」

「本当だよ。旅の商人から聞いたから」

「ライナ村も占領されたんですか?」

「そこまでは詳しくは知らないよ。だけど、村や町が占領されたっていうから、そういうことなんじゃないかい?」

「…そうですか。なにもひどいことをされていなければ良いのですが…」

「飛鳥ノ国は、賢君と名高いフィンレンソンの治める文化レベル高い国だし、兵士の質も良いっていうから。野蛮なことはしないと思うよ」

「そうですか。なら良いのですが」

 父と母が心配だった。野蛮なことはしない、という客の言葉を信じたかった。とくに父が心配だった。父は兵士である。村を守るため戦い、死んでしまった可能性がなくはない。その道を選んだのだから、それはそれで無念というほかないが、できれば生きていて欲しい。代わりに敵の兵士が死ぬこともあるかもしれないが、それは自分の父がシュメルである以上、ごめんなさい、だ。


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