FINAL ROUND
イルミネーションのトンネルを抜けると、潮風が吹く公園に辿り着いた。ヒロ君のアエスコートで下を海が流れる展望台にやって来て、私たちは柵の近くに立った。
遠くに豪華客船が見えた。キラキラと光っていた。
しばらく2人でその景色を見ていた。
「眼を瞑って」
ヒロ君がそう言った。私は早まる脈拍を必死に抑えながらその通りにした。暗闇の中で波音がしていた。
そのまましばらく時間経った。私は唇に全ての意識を集中していたが、いつまで経ってもキスされないので、痺れを切らして「ヒロ君?」と声をかけた。
それでも返事がないので、私はうっすらと目を開けた。
ヒロ君は柵に背中を付けながら上を向いていた。そして泡を吹いていた。
発作でも起こしたかと、「どうしたの?」と言うと、ヒロ君は声を出せないようで必死に目で何かを訴えて来ている。そして指でマフラーに差している。
マフラーが絞まっている。まさか、と思い柵から身を乗り出して下を見ると、垂れたマフラーの端にハゲジジイが掴まってぶら下がっていた。
「油断禁物だと言った筈だぞ、ヨシコ!」
笑いながらマフラーを辿って上って来るハゲジジイの服は濡れていた。まさか海を泳いで下で待機していたというのか、ヒロ君のマフラーが下に垂れることに賭け、そしてその一瞬を見逃さずに海面から飛び上がってマフラーを掴んだというのか。
この化け物め。
「今そっちに行くからな、首を洗って待っていろ!」
ハゲジジイが迫って来る。ヒロ君は白目を剥き、意識が朦朧としているようだ。マフラーを解こうとしたが、強く絞まっていて指を入れる隙間がない。このままでは・・・。
「止めろ!」
私は叫んだ。するとハゲジジイは言った。
「『もうパパを無視しない』と言ったら放してやるぞ!」
この卑劣さ、狡猾さ、非情さ、こんな性格だからママが出て行くんだ。私は血涙が出る程悔しがりながらも、やはりそれしかないのか。と思っていた。
ヒロ君が私の服を掴み、「助けて」と声にならない声を出した。それを聞いて私は意を決した。
私は大きく息を吸い込んだ。それを見て、ハゲジジイはニヤリとした笑いを浮かべた。
しかし私の口からは「もうパパを・・・」なんて言葉は出て来なかった。そしてハゲジジイの笑いは消えた。自分の体が落下し始め、頭上から私とヒロ君が落ちて来たからだ。
死んでもお前の好きにはさせるか。
何とか陸に上がった私は、まずヒロ君に事情を話し謝った。ヒロ君は混乱しつつも、やがて納得してくれた。
しばらくしてヒロ君はハゲジジイに言った。
「お父さん、俺たちの交際を認めていただけないでしょうか?」
私はその言葉を聞き、こんな目に遭っても私を好きでいてくれるなんて、と涙が出そうになった。
しかしヒロ君はこう言った。
「お父さん、マフラーを解けても、俺とヨシコさんは運命の赤い糸で結ばれているんです」
その瞬間、濡れているせいではない悪寒がした。ふざけているのかと思ったが、ヒロ君は至って真面目だった。
「ああ、冷めるってこうゆうことなんだな」と思った。別れたい。
「お前、こんな臭い台詞吐く奴ロクな奴じゃないぞ」
ハゲジジイが私の言葉を代弁した。そこで私は言った。
「こうゆうところが好きなんだよ」
私と親父の新たなる闘いが始まっていた。
マフラーはVSの絆 きりん後 @zoumaekiringo
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