第二十階 不遇ソーサラー、色々削られる


 とうとうやった。『九尾の狐』を一匹残らず全滅させてやった。


 夜の冒険者登録所って、こんなに空気美味しかったっけ。煙草吸ってる鬱陶しい冒険者でさえ愛しく感じて、色っぽく見つめるとデレデレとした顔をされた。今なら誰にセクハラされても許せそうだ。あ、レビーノだけは無理だが。


「お疲れ様、クアゼル」

「ああ、エリナもお疲れ様」


 ポンポンと肩を叩いてやると、またエリナに腕を引っ張られて女子トイレに連れていかれた。


「どうした? エリナ」

「もうこれで復讐は終わったんでしょ?」

「ああ。まあな。殺したいやつはまだいるけど復讐ってほどじゃないし」

「じゃあ、これからは私に付き合ってよね!」

「ん? 見付かったのか?」

「ま、まだよ」


 なんだ。見付かってないならどうしようもない。


「それじゃ、もう寝るか?」

「ちょっと! 私はまだやれるわよ」

「え?」


 なんか妙な空気だ。エリナのやつ恥ずかしそうに両手を合わせてもじもじしてる。


「何をやるんだよ」

「狩りに決まってるでしょ! それとも疲れてるの?」

「いや、別に……」


 むしろ有り余ってるくらいだ。


「じゃあ、いいでしょ!」

「復讐相手、探さなくていいのか?」

「どうせすぐには見付かりそうにないし……。気長に探すだけよ!」

「エリナ、素朴な疑問なんだが俺みたいなやつと狩りして怖くないのか?」


 散々こき使った上に、残虐ショーもこれでもかと見せつけてやったのに。


「怖い? なんで?」


 逆に聞かれてしまった。


「俺が怖くないのか……」

「怖いっていうより楽しいわよ! 私も早くこんな風に復讐したいって思うし、それに……」

「それに?」

「好きだもん、クアゼルのこと……」


 言葉が出てこなかった。って、ああ、友達として好きってことか。びっくりした。


「俺もエリナのこと好きだよ」

「本当!? 嬉しい……」


 泣いてる。なんで泣いてるんだ。まさか、これって告白だったのか……? おいおい、確かに今の見た目はこうだが、俺の中身は37歳のおっさんだぞ。


「釣り合わないかもしれないぞ」

「ど、努力するわよ! ふん!」


 そういう意味じゃなかったんだが、どうやら向こうのほうが努力してくれるらしい。


名前:ジュナ

年齢:17

性別:女

レベル:46

ジョブ:プリースト

ギルド:『九尾の狐』


LEP561/561

MEP857/857


ATK19

DEF517

MATK163

MDEF141

キャパシティ9


固有スキル


【転生】【先行入力】【効果2倍】

【レア運上昇】【先制攻撃】【必中】

【鉄壁】


パッシブスキル


モンスター耐性7

ヒューマン耐性5


アクティブスキル


ヒール7

ヘイスト6

プロテクト6

リザレクション5

スティグマータ7

プロビデンス1

ホーリーアロー2


 ジュナってこんなに若かったのか。ちょっと悪いことしたな。


 でも、この桁外れのDEFはもちろん、スキル構成見てるとやっぱ早めに殺しておいてよかったと思う。一定時間ごとのダメージと引き換えに魔力をUPさせるスティグマータと単体魔法攻撃のプロビデンスのコンボは凶悪だ。初期レベルとはいえエクソシスムより強力な上位スキル。範囲はそれほど広くないが詠唱が短い。フレイムウォールで距離を取っていて正解だった。蛆がいなかったらあのまま距離を詰められていただろう。【先制攻撃】は戦闘の最初にしか適用されない可能性もあるし、エレメンタルプロテクターが最低でも3欲しいところだ。ちなみにこれが3になり、ブレスとサモンシリーズも全部3にすればまた新しい重要なスキルが発現する。ソーサラーにとっては最重要と言ってもいいくらいかもしれない。


 さて、ソーサラーに戻るか。


名前:ジュナ

年齢:17

性別:女

ジョブ:ソーサラー

レベル:46

ギルド:『九尾の狐』


LEP503/503

MEP857/857


ATK21

DEF520

MATK178

MDEF135

キャパシティ9


固有スキル


【転生】【先行入力】【効果2倍】

【レア運上昇】【先制攻撃】【必中】

【鉄壁】


パッシブスキル


ムービングキャスト7


アクティブスキル


マジックエナジーロッド7

エレメンタルプロテクター2

サモンノーム1

インビジブルボックス5

ベナムウェーブ6

サモンシルフィード4

フレイムウォール5

エレメンタルブレス2


 自殺する前にアースホルダーをスキルレベル3にしてサモンノームを入れたんだった。蠅エリアとも呼ばれるブラッディフライがいる地下7階層でエリナと狩りをするためだが、まさか今日になるとは思わなかった。エリナは多分疲れてるとは思うんだが、復讐が終わって俺が離れていくのが怖いのかもしれない。実際、迷っていることも確かだ。この体を壊してしまえばもう会うこともないだろうし。告白してくれたのは嬉しいが、もう俺はソフィアに裏切られる前の俺じゃないんだ。1人のほうが気楽じゃないかとも思っている。いずれにせよ早く決めないとな。この狩りが終わった後にでも。


 サモンシルフィード、ヘイスト、プロテクト、【効果2倍】、【鉄壁】――これらのおかげでほぼ邪魔されることなく、速攻で蛆エリアの下にある地下七階層に到着した。


「ブンブンうるさいわねー」

「そうだな」

「ふん! どうせ私もうるさいわよ!」


 エリナの自虐ギャグに思わず苦笑。それにしても延々と無数の不快な羽音が漂ってきて気が変になりそうだ。やつらは冒険者の血を吸って自分のLEPに変換する特性があるんだ。しかも遠距離からブラッディドレインという厄介なスキルを使う。DEF関係なく、50ほど持っていかれるんだ。蛆と違ってLEPが莫大なのも特徴。物理攻撃は【必中】で当たるとはいえ、これだけの数を相手にする場合魔法で攻めたほうがよさそうだ。


「サモンノーム!」


 年老いた小人の精霊が現れる。ブラッディフライは風属性だから地属性がよく効く。フレイムウォールで縦置きして、やつらが飛び込んでくるがまったく死ぬ気配がない。


「――エレメンタルブレス!」


 5回攻撃の5回目でようやく落ちた。


「ヒール!」


 その間火の壁に飛び込んだ蠅どもから幾つも吸血されて死にかけた。エリナって割とLEPの底が見えてからヒールするタイプなんだよな。残虐ショーも平気みたいだしもしかしたらドSなのかもしれない。さすがに恐怖を感じて、蠅が集まりすぎないようにすぐエレメンタルブレスを使うことにした。それから30分くらい狩りをして、俺が50、エリナが45レベルまで上がったところで切り上げる。


「エリナ?」

「何よ」


 さすがに疲労困憊になって帰る途中、エリナが腕を組んできて焦った。


「恋人同士なんだから当然でしょ!」

「そうだな」


 それ以上、もう何も言わなかった。登録所まで戻り、そこで別れた。深夜なだけあって冒険者の姿も疎らだ。


「じゃあな」

「うん。クアゼル、待ってるから。ずっと……」

「エリナ……」


 エリナは一度も振り返ることはなかった。もうわかっていたのかもしれない。俺はこの体を壊すということを。最早誰も信じられなくなってしまっているということを。


 ダンジョンの地下一階層に戻ったとき、妙な視線を感じたが、周囲には誰もいなかった。刺すような視線だった。ジュナのやつ、相当恨まれてたのかな。まあ俺にはもう関係のないことだ。


「ベナムウェーブ――マジックエナジーロッド!」


 さよなら、エリナ。もっと早く会いたかった。もう二度と会うことはないだろう。

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