第十八階 不遇ソーサラー、パンにありつく


「きゃあぁぁっ!」


 なんだ? 五度目の転生はエリナの悲鳴で迎えられた。


「きっ……来なさい! クアゼル!」

「お、おい、生まれ変わったばっかりなんだから……」

「いいから!」


 エリナに腕を引っ張られて女子トイレに向かっていく。なんなんだよ。


「――あ……」


 鏡の向こうには怒った表情のエリナと、包帯グルグルのミイラ――俺――がいた。そうか。マミーの包帯つけてたんだったな。復元されるはずだったあいつの服はこれで上書きされちゃったわけだ。確かにレア装備ではあるが大した価格で売れないのはよくわかる。ダンジョン内ならともかく襲われることはないと思うが顰蹙はたっぷり買いそうだ。


「ふう……」


 急いで全身の包帯を外すと、俺のつけた刻印は当然だが消えていた。あれ結構気に入ってたのに。てか恥ずかしいな。なんもはいてないわけだし、服はどうしようか。


「ほら、これはきなさいよ!」

「え」


 エリナがマジックフォンの装備欄からパンツやらスカートやら出してきたので遠慮なくはかせてもらったが余計に恥ずかしかった。


「これ、エリナのか」

「そうに決まってるでしょ!」


 どうもスースーするな。スカートには慣れそうにない。


「クアゼル、似合うわよ!」


 エリナ、なんか嬉しそうだな。俺としては三馬鹿の1人になってるわけだから割と胸糞なんだが。


「もう夕食の時間なんだけど、どうする?」

「正直腹減ってて死にそうだが……この際だ。一気に終わらせる」

「もうっ……そんなこともあろうかと、はい!」


 エリナのやつ、今度はアイテム欄からパンを二つ出してきた。


「ありがとう、エリナ」

「ど……どういたしましてよ! ふん!」


 このパンって見覚えあるな。俺が働いてたところのじゃないか、多分。外はサクサクで中にたっぷりチョコクリームが入っている。思い出は苦々しいがこのパンは美味しいんだよなあ。見てるだけで涎が出そうだ。俺をカビパン扱いした元同僚のレビーノ元気かな。あれから全然会わないけど、あいつもダンジョンにいるはずなんだよ。ついでに殺してやりたい。


名前:エルミス

年齢:19

性別:女

ジョブ:アーチャー

レベル:46

ギルド:『九尾の狐』


LEP406/406

MEP651/651


ATK66

DEF16

MATK103

MDEF71

キャパシティ9


固有スキル


【転生】【先行入力】【効果2倍】

【レア運上昇】【先制攻撃】【必中】


パッシブスキル


オウルアイ7

イーグルアイ7


アクティブスキル


瞑想7

アローサークル3

メテオアロー7

アローレイン6

アンクルトラップ5

スリーピングトラップ2

大鷲の眼光1


 これまた厄介なスキルを入れてきている。アーチャーの上位スキルの大鷲の眼光は使うと一定時間、弓の攻撃力が爆発的に増すんだ。それでメテオアローの威力があんなにあったんだな。相当上げにくいらしいが初期レベルで助かった。


 それと、足を拘束するアンクルトラップ使われてたらやばかったな。まあこっちが攻撃の意志を持ってる時点で【先制攻撃】できるし勝ちは決まってるんだが。


 喉に引っ掛かったパンを水で一気に流し込む。きついが休んでられない。仇はあと一匹だけだが、異常を悟られる前に一気に始末したい。というわけで早速ギルド会話でやつに話しかける。もう本物の『九尾の狐』はジュナ……お前だけだ。


「ジュナ、いる?」

『エルミスさん? 一体どうしたというのです。マスターもいませんし、ローザさんに至ってはギルドを抜けてしまわれていますし……』


 ジュナのやつ、さすがに警戒し始めているな。ここで失敗は許されない。機転を利かせなければならない。自然な感じを装わなければならない。


「それがね、ローザと喧嘩しちゃって。そしたらもうギルド抜けるって言って……ダンジョンに潜っていったから追いかけたんだけど、見付からなくて……」


 通り魔にやられた、という線も頭に浮かんだが、それだと何故ギルドを抜けたのかがわからない。喧嘩したことでローザがギルドを抜けたというほうが自然だし警戒心もそこまで持たないだろう。


『あらあら。よっぽどローザさんを怒らせるようなことを言ったのでしょうね。例えば、あのクアゼルみたいな無能とかどうとか。私なら耐えられませんけれど』


 こいつ、まだ言うか。本当の無能は誰なのか思い知らせてやる。


「そう遠くは行ってないと思う。ソロだし。ね、一緒に探してほしいんだけど」

『はい。今行きますね』


 ジュナ、お前の処刑方法もちゃんと用意してある。ゴミクズらしく最高にもがき苦しみながら惨めに死んでもらう。


名前:エルミス

年齢:19

性別:女

ジョブ:ソーサラー

レベル:46

ギルド:『九尾の狐』


LEP503/503

MEP857/857


ATK20

DEF20

MATK170

MDEF132

キャパシティ9


固有スキル


【転生】【先行入力】【効果2倍】

【レア運上昇】【先制攻撃】【必中】


パッシブスキル


ムービングキャスト7


アクティブスキル


マジックエナジーロッド7

エレメンタルプロテクター2

サモンイグニス1

インビジブルボックス5

ベナムウェーブ6

マジックエナジーストライク7

フレイムウォール4

エレメンタルブレス2


 火の精霊を呼び出すスキル、サモンイグニスを発現させるべくスキルレベル3にしたフレイムホルダーを外し、フレイムウォールを入れた。サモンシルフィードはサモンイグニスと交代させた形だ。火の精霊を出していると火の魔法の威力が強くなるからな。よし、これで残虐ショーの準備は整った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る