第五階 不遇ソーサラー、吐き気を催す
俺とソフィアは、早速ギルド狩りとかいうくだらないものに呼び出された。
内容は簡単だ。まずギルドマスターのルーサがプリーストとしてのお手本を示し、周りがいちいち褒め称えるんだ。ヒール砲はアンデッドに効くんだとか当たり前すぎることを物凄く偉そうに語ってて噴き出しそうになってしまった。
「エクソシスム!」
地下三階層、魔眼の帽子を被ったルーサが唱えたプリーストの上位スキル、エクソシスムが完成し光輝く円が地面に現れると、そこまで誘い出されていたミイラたちが次々と浄化されていった。
タフなLEPを持つマミーがあっさり沈むのだからかなり強力だが、同パーティーにいるソフィアの【効果2倍】も加算されていると考えると多分実際のスキルレベルは4くらいだろうか。
悪魔系やアンデッド系の敵には絶大な威力を発揮するというのはわかるけど、今や俺とソフィアだけでも普通に倒せるモンスターだらけの三階でやられてもしらけるだけだ。これも新人の俺たちに自分をより強くみせるための計算ずくの行動だろう。
「――ヒール!」
何を思ったのか、ルーサがミイラの足や腕をヒールで壊してその頭を踏みつける。悪趣味な男だ。
「んー、これは誰かに似てるね。何もできない、無能、醜悪と来れば……誰だろう?」
「誰でしょうねえ」
「誰だろー? アハハ!」
「誰だろうな?」
ジュナ、エルミス、ローザの三馬鹿から下品な笑い声が上がる。さすがにソフィアは青い顔で黙ってたが。
「こんな風に生まれたら悲劇だろうね。まさか、そんなのが僕のギルドにいるなんて思いたくないけど……」
はっきり言えばいいのに。この男の固有スキルは【いじめ】か? 実際は【レア運上昇】というスキルで、敵を倒したときに珍しいものが出やすいらしい。大したレベルでもないのにやたらと高価な物を持っているのはおそらくこれのおかげだろうな。
このスキルのおかげでやつはボス討伐の際によく中級層のパーティーに誘われ、しかも優先的に守られていると聞いた。三馬鹿がやたらと慕うのには宗教的なもの以外にも何か理由があるとは思っていたがこれだったわけだ。
ちなみに固有スキルはそれ自体が独立しているので【効果2倍】が【レア運上昇】を2倍にさせることはないらしい。やつをこれ以上儲けさせたくないし少し安心した。
「僕の言ってることは非情かもしれない……。でも、このギルドに入るということは『九尾の狐』の看板を背負うということ。そのことを深く重んじてほしいのだ。『九尾の狐』には確かに輝かしい歴史がある。だがそこには、数々の栄光だけでなく悲しみが幾つも刻まれているのだ……」
「「「ひんっ……」」」
ルーサがミイラにとどめを刺し、涙ながらに語り始めると、三馬鹿が寄りそうようにして泣き崩れた。心底くだらない。
「ルーサさん……」
ソフィアまでもが感動した様子で見つめている。教祖の洗脳は進んでいるようで胸糞悪い。そこでタイミングよく、本――ヘルワード――が2匹、背後からルーサを襲おうとしているのが見えたが俺は当然無視した。もう間に合うまい。
「――アローレイン!」
だが、先に攻撃したのはエルミスだった。【効果2倍】の影響もあるのか大量の矢が降り注ぎ、ことごとく本に命中した。
「びっくりした……」
一歩後退した俺や座り込んだソフィアを除き、誰もが平然と立っている。まるで相手にしていなかったかのように。
今の、どう考えても本のほうが速かったように見えたのに、挙動が遅れていたエルミスが先に攻撃していて、本は口を開けた状態で自分から止まったように見えた。それだけじゃない。ルーサは当たっても平気だと言わんばかりに悠然と突っ立っていたのだ。
俺はマジックフォンを取り出し、パーティー情報からやつらの固有スキルを確認する。
ジュナ 【鉄壁】
極めて高い物理防御力を維持できる。パーティーでも有効。
エルミス【必中】
どんな攻撃でも100%命中させることができる。パーティーでも有効。
ローザ 【先制攻撃】
攻撃の意志を持った時点で相手より先に先制攻撃できる。パーティーでも有効。
何故このギルドが4人しかいなかったのかよくわかった気がする。4人でも充分だからだ。そこに【効果2倍】を持つソフィアが加わればもうほかのメンバーはいらないというのもわかる。【空欄】とはいえ、俺をこれだけ弄り回す理由も……。
「さすがは僕のメンバーたち。本当に頼りがいがある。それに加えて無能も受け入れてやる慈悲深さ。優しすぎるというのは罪なのかもしれない……うっ? こほっ、こほっ……」
「「「マスター!」」」
「ルーサさん……?」
胸を押さえてわざとらしく咳き込み出すルーサだが、三馬鹿は悲鳴のような声を上げて駆け寄り、ソフィアも続いた。
「お体は大丈夫でしょうか、マスター」
「無理したらダメですよー、マスター……」
「無理だけは禁物だ、マスター」
「本当に、お体にだけは気を付けてください、ルーサさん……いや、マスター」
こっちまで吐き気がしてきて胸を押さえる。おえっ。ルーサのように明らかな仮病ではなく本物だが、誰一人視線すら俺にくれることはなかった。
「ふう……みんなが心配してくれたおかげか、もう大丈夫みたいだ……」
「「「「マスター……」」」」
「……」
案の定、ルーサのやつは何事もなかったかのようにキザな笑みを浮かべてみせた。
ここまで不快な気持ちにさせられた以上、もうこんなところに俺の居場所はないと感じる。このままじゃ自分の心身が持たない。ある意味追放されたってところか。ソフィアと一緒にいられる時間は減っても、ここから抜けるべきなのかもしれない。
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