第6話

美和子は綺麗なスーツに着替え、待機室に向かった。駅で二駅程の場所である。昼間からこんな派手な恰好をしているのは目立つがしょうがない。駅から歩いて十五分程の場所にある待機室に着く。中に入るとマンションの一室で七、八人の女性がテレビを見たり漫画を読んだりして、自分が呼ばれるのを待っている。

「この前のお客さん、最悪でさー。臭い。臭い」

「臭いの最悪だよね」

「風呂で二時間、ずっと洗ってやったよ」

 女性達の間で笑い話が飛び交う。美和子はあまり会話をする相手がいないが自宅で待機するより皆と一緒に待っている方が好きだ。自宅だと仕事をしているという実感が湧かない。

小説を読んで時間を潰していると待機している女性の電話がなった。

「指名ですか?解りました。残念。フリーで百二十分ですね。了解です」

「フリー入ったから行ってくる。変態じゃありませんように。じゃあね」

一人、また一人とお客さんに呼ばれて消えていく。

(良かった。今日はお茶ではなさそうだ)

 最悪な日はお茶といって誰もお客さんがつかない。待機室迄の電車賃のマイナス損失だ。今日は二、三人呼ばれるかな?と思うと同時に、美和子も心の中で

(変態さんに呼ばれませんように)と祈る。爽やかに会って爽やかに仕事を終えたい。以前、おしゃべりだけして二時間たった事が何回かある。そんな時は本当に嬉しい。

 そんな事を考えているとポケットの電話が鳴った。

「はい。美和子です。指名?誰ですか?飯塚さん。良かった。百二十分ですね。了解です。」

 指名が入った。いつも美和子を指名してくれる飯塚さんというお客さんである。優しくて美和子をとても可愛がってくれる。仕事に感情を入れてはいけないと思うが飯塚さんみたいな人ならお付き合いをしたいと思う。美和子は唇にリップグロスを綺麗に塗り直して待機室をでた。

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