第5話

目を覚まして枕元の目覚まし時計を見る。

(五時半?もう?そんなに寝た?)

 いつもは寝ても三、四時間位である。十一時位に布団に入った記憶があるのでいつもより長い時間眠った事になる。どうやらメンタルクリニックで貰った薬が効いたらしい。

(良かった。これから毎日欠かさず薬を飲もう)

 美和子はそう心に決めて、仕事に行く準備をする。何となく眠たい感じがするが仕事を休む訳にはいかない。仕事をしなければ生活できないのだ。

(今日は2、3人と相手をしたいな)

 一人あたり8000円の収入と計算して一日2万位の儲け。我慢して嫌なデリバリーヘルスの仕事をしているのだからこれ位の収入は欲しい。人より細いのでチェンジをされてしまうことが多いが、それでも容姿は悪い方ではないと思う。決まって指名してくれるお客さんも多い。

 美和子の年齢から選んだのが『貴方の人妻デリヘルクラブ』という場所だ。独身で彼氏もいないのに人妻という設定である。

 一生できる仕事ではないように思うが、この仕事を選んでしまっている。なぜなら高校を卒業してから風俗でしか働いた事がないのだ。

「風俗で働いて親を養え」

 母子家庭で育ち、その母親に言われてきた言葉である。

「風俗でなくたっていいじゃない?会社員ではダメなの?」

「大学に行かせるお金はないからね。月に二十万。私に生活費をくれるなら何でもいいよ」

 そう言った母の後ろ姿は怖かった。いつものように怒鳴られ暴れられるのではないかと思った。

今考えれば風俗でなくても良かったのかも知れないが、美和子は高校を卒業した後やけくそ半分でキャバクラに勤める事にした。時給二千五百円。一日六時間働くとすれば結構なお金になる。しかしドレス代や髪型のセット代などを考えると金額のマイナス面も大きい。それに当日具合が悪くなって欠席や遅刻をするとペナルティを引かれてしまう。これもまた大きな損失である。結局は思ったようには稼げないので二年も働いて辞める事にした。次にランジェリーパブ、ファッションヘルス等色々風俗を経験した。しかしこんな仕事は年齢が勝負である。美和子の年齢になると殆ど需要が無くなってしまうのだ。それでしかたなく今のデリバリーヘルスに落ち着いた。

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