尋問されても

綱島は大きな繁華街ではないが、それでも月末の土曜である

落ち着いた店を確保できる確証はなかったが、うまい具合に個室を取る事ができた

お互いに聞きたい事や伝えたい事があるだろうから、こんな時個室の居酒屋はありがたい


僕 改めまして、久しぶりだね

眞 それよりも、いろんな事あって何から話していいか・・・

僕 わかった

僕 じゃあ眞紀から好きに尋問してよ

眞 尋問って・・・でも尋問するね


僕は右手を軽く上げて手のひらを眞紀に向け


僕 真実を述べる事を誓います

眞 相変わらずね・・・


安堵の笑みを浮かべる眞紀だが目が真面目になる


眞 奥様はどうして亡くなったの?

僕 癌、乳がんから始まっていろいろ転移したみたい

僕 一昨年の4月に僕は知ったんだけど、そこから1年で逝ったよ

眞 お医者様から宣告されて1年って事?

僕 いや、医者からはもっと前に言われてたみたいだけど

僕 詳しい事は話さなかったから聞かなかったよ

眞 そうなんだ

眞 生活はできてるの?

僕 もともと料理はするし、ガキも大きいから洗濯とか掃除は振り分けてる

僕 どうにかやっていけてるよ

眞 そうなんだ・・・

眞 お亡くなりになったのは仕方ないとして・・・

僕 して?

眞 なんで私には教えてくれなかったの?


ん?

自分の事は棚に上げるのか?

でも、未だ僕は眞紀の離婚を知らない体なのでとりあえずスルー


僕 んーなんとなくかな

眞 なんとなくなの?

僕 いや、本当は眞紀を惑わせたくなかったから

眞 どうして?

僕 僕が独身になったら眞紀が気を使うじゃん

眞 何故私が気を使うの?

僕 気にしないの?

眞 気にしないわけないじゃん!

僕 そういうところ

僕 眞紀が気にしておかしな事になったら嫌じゃん

眞 うちの夫婦がおかしくなったら困るの?

僕 本音は困らないよ

僕 でも、それで眞紀がつらい目にあうのは嫌なんだよ

眞 ・・・

僕 そういうのって分かってもらえないかな?

眞 わかるよ・・・とっても


しばし互いに沈黙

その間、僕は言葉を選んでいた


僕 僕の都合だけでいいなら、今の状態を眞紀に伝えるのもアリかもだけど

僕 伝えたからどうなるもんでもないでしょ?

僕 だって枷が外れたのは僕だけなんだから

僕 眞紀も困ると思うから、もう少し時間おいて伝えるつもりだったよ

眞 そうね・・・わかるわ


眞紀のターン


眞 奥様の話しの後で申し訳ないけど


遂に来たか?

眞紀の現状告白タイム?


眞 桃ちゃんの事はどうなの?

僕 え?

僕 それはさっき言ったとおりだけど

眞 違うよね?

僕 何が違うの?

眞 毎週デートして、腕組んで歩いてたんだよね?

僕 ・・・

眞 真実だけを述べるんでしょ?


弁解の言葉を探す僕


眞 当ててあげようか?

僕 何を?

眞 桃ちゃんが貴方の事を好きになって、貴方も鼻の下を伸ばした

眞 でも、いざ告白されたらビビッて大人ぶって断ったんでしょ?

眞 違うかな?


斎藤さんに聞いたのだろうか?

でも知ってるようなので誤魔化す必要もない


僕 その通りだよ・・・

僕 好かれたらやっぱり嬉しいじゃん

僕 結構いい感じだったと思うよ

僕 でもいざとなると受け入れられなかったんだよ

眞 なんで?

僕 それ聞く?

眞 聞くw


僕のターン


僕 眞紀の事が大好きだからです

僕 眞紀以上の女はこの世にいないからです

僕 眞紀にすべてを捧げたいからです

僕 嗚呼眞紀よ、君は女神だ太陽だ

僕 もっと続ける?

眞 もういいや、お腹いっぱいになったw


意地悪く笑う眞紀

これに僕はいつもやられていたのだ


眞 でも、桃ちゃんにはソレを理由にできないよね

僕 できるわけないじゃん

眞 どう説明したの

僕 妻への未練かな

眞 ま・・・

僕 ・・・

眞 なんでも正直に答えればいいってもんじゃないわよ・・・

僕 そうだね・・・反省する


眞 でも不謹慎だけど貴方はこれで自由に恋愛できるようになったんだ

僕 そういう事


さぁ

今度は眞紀の番だぞ・・・


眞 だいたいわかったから、もういいです

僕 ん?

眞 どうかしたの?

僕 別に何にもしないよ


結局、この日眞紀から離婚の件を話してくる事はなかった

もしかしてこれは、斎藤さんの勘違いなのだろうか?

でも、流石に離婚なんて問題を勘違いするとは思えない

そうか・・・

眞紀には未だ僕に自分の状態を伝えられない、若しくは伝えたくない理由があるのかも知れない


ここで焦って結論を求めても好転はしない

僕はそう思い、ぐっと堪えて今日は真相を確かめるのをやめた


僕 またこっちに来る事はあるかな?

眞 姉のところにはこれからも来れるよ


切り出してみる


僕 正月過ぎたら実家に帰ろうと思ってるんだけど

眞 そうなんだw

眞 大阪で途中下車してよ、逢いに行くから

僕 うん

僕 大阪で宿

僕 取っちゃおうかな?

眞 じゃあお願いするね


ん?


僕 ごめん、確認するけど宿取ったら眞紀も泊まるって事でいいんだよね

眞 いちいち確認しないでw

僕 慣れてないもんで・・・

眞 私が慣れてるみたいに言わないでよ

僕 ハイ モウシワケアリマセンデシタ

眞 相変わらずバカなのね

僕 そうだよだって


「バカはバカ同士だから」


眞紀は姉の家へ行くと言って渋谷方面の電車に乗った


結局、今夜は僕の近況を眞紀に伝えただけ

眞紀が言いたくない事は未だ聞かないでおけばいいだろう

いずれわかることだろうし


タクシーの中でぼんやり外を眺めていると携帯が震えた


眞:お疲れ様

眞:また電車の中でニヤニヤしてるでしょ?

僕:どこで見てる?

眞:バーカ

僕:認めようw

眞:おやすみなさい

僕:おやすみ


やっぱり電車で帰れば良かったかな

僕と眞紀は、あの頃と変わらないように思えた

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