触れないであげて

僕と藤田が二人で飲みに行くことはなくなった

それはそれで寂しい事だが、応えられない以上いい顔ばかりはしていられない


又、百瀬から仕事の相談を受ける事が少なくなっていた

藤田と百瀬の間で、どんな進展があったのか知る由もないが、百瀬は百瀬で思う所もあるのだろう

不自然に増えた百瀬の津島への相談に津島は困惑していたが、これも悪い傾向ではない

津島も既に後輩を指導すべき立場なのだ




穏やかな日々が続いていたのだが

事件は常に急に起こる


11月の上旬、斎藤さんから相談があるとの事で僕はランチの席についた


斎 実は報告があります


斎藤さんの笑顔から、良い話しなのはわかっていた

僕が斎藤さんの報告で期待する事はただ1つ

眞紀関係の情報である


斎 今月の終わりに真木さんが遊びに来ます


ビンゴだw


斎 で、相談なんですけど

斎 サプライズで歓迎会を開きたいと思ってます

僕 おもしろいじゃん

斎 メンバーは私と課長と津島さんでどうでしょうか?

僕 懐かしいね、それでいこうよ

斎 ですよねーwww

斎 お店とかお願いしていいですか?

僕 いいよ、僕が手配しよう

斎 どこにしますか?

僕 今決めた

斎 早っ!どこですか?

僕 最初に4人で飲んだ、トルコ料理店

斎 なるほどー、課長ロマンチストですね?

僕 何故そうなる?

斎 でもいいかもw

僕 津島には僕から言っておくよ

僕 日付は?

斎 11月の最後の土曜日ですけどいいですかね?

僕 問題無い


一応確認しておく


僕 これってサプライズだよね?

斎 そのつもりですけど、何か気になりますか?

僕 一応こちらも驚かせるつもりでいなきゃと思ってね


当然斎藤さんは、僕と眞紀の関係を知らない


僕 楽しみだねw

斎 でも、課長には事前にお知らせしておいた方がいい事があるんですよ

僕 何?

斎 と、言うよりもその話題について真木さんからふってくるのは良いんです

斎 だけどデリケートな問題なんで、こちらからは触れないでください

僕 わかった

僕 で、何があったの?


なんか雲行きが怪しい・・・


斎 実は真木さん・・・

斎 大阪帰ってすぐに離婚してるんですよ



僕 マジで?

斎 はい、触れないであげてくださいね

僕 わかった


もっと聞きたい事だらけである

しかし堪えて、厳選に厳選を重ねて1つだけ斎藤さんに聞いてみる


僕 ところで、逆に真木さんは僕の妻が死んだ事は知ってるのかな?

斎 さぁ?どうでしょうかね?

斎 少なくとも私とは課長の事とか話題にしないし

斎 多分、知らないんじゃないですか?

斎 報告するなら、その日に自分でするのがいいと思いますよ

僕 そうだね


その後は別の話題でランチを終えたが、どんな話しをしたのか全く覚えていない

午後の仕事も全然進まなかった


とりあえず時系列で整理してみよう


令和2年 1月 眞紀大阪へ帰る

     ?月 眞紀離婚する

     4月 僕が妻から癌を告白される

令和3年 4月 僕の妻が亡くなる

令和4年11月 今に至る


こういう事だろう


僕も眞紀も一応自由な立場になっているらしい

そしてお互いにその事は知らない

僕は今知ったけど・・・


眞紀にバツが付いてから、多分2年くらいだとは思われるが、今どういう状態なんだろうか?

僕はもう平気な精神状態だが、眞紀の方は全然わからない

眞紀有責だって事もありえるし、もしかしたら僕が原因だった可能性がないとは言い切れない

今すぐに電話して話したいけど、顔を見ずにこんな事を確認するなんて、僕にはできない

すぐに大阪に行こうかとも思ったけど、行く理由が思いつかない

そして、既に眞紀が来ることは決まっている

僕は気持ちを抑え、我慢に我慢を重ねて眞紀の来る日を待った



11月25日(土)

休日なのに飲みに出てくる事を津島は抗った

しかし斎藤さんに押し切られる形で来る事になる


僕と津島はトルコ料理店で先に飲みながら

眞紀と斎藤さんが来るのを待った

予定時間を5分程過ぎた頃

斎藤さんに連れられて眞紀が現れた


大きなマフラーで小さな顔を半分程隠した

イスラムの君である

あの頃と全然変わらない、綺麗で可愛い眞紀

そして全く驚いた様子が眞紀に見えない

店の前まで来た時点で僕達が待っている事が予測できたようだ


以前に来た時と同じ席に同じ配置で座る


僕は伝えたい事と確認したい事があり過ぎたのだが、飲みの席の話しは僕の都合とは全然違う方向に進んでいくのだった


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