その人の名前
10月10日7:00
僕は藤田の指定する駅まで車で迎えに行った
本当は電車にしたかったのだが、強いリクエストに応える形だ
いつもより濃いめのメークの藤田を拾い、未だ渋滞の始まる前の首都高に乗ってディズニーランドを目指した
藤 迎えに来てくれるなんて感動ですw
僕 ま、誕生日だからね
藤 何時に出てきたんですか?
僕 5時半起き
藤 私もです
僕 今は元気だけど、帰りは運転してもらおうかな?
藤 いいですよ。私も免許はありますから
僕 普段運転してるの?
藤 全然してないですけど大丈夫です
僕 わかった・・・運転頑張るよ
藤 お願いします
好天の土曜日
それなりに混雑はしていたが結構僕も楽しめたと思う
アトラクション選びは言うまでもなく、全ての行動を藤田に任せていたのだが、こんなに効率よく立ち回れるのは驚きだった
何よりも驚いたのが、帰りの渋滞を考慮して3時過ぎには園を出た事
こんな気遣いが出来る娘だとは知らなかった
さらに驚いたのは車の行先を僕の自宅に指定してきた事
一旦車を置いてからじゃないと僕が疲れそうで心配らしい
藤田の意外な一面は実に魅力的で、もともと悪くない容姿も手伝って、彼女の株は僕の中で急上昇していた
特にプレゼントは用意していなかったので、少しグレードの高いお店でお祝いをした
藤 ここって結構有名なお店ですよね?
僕 そうかもしれないね
藤 嬉しいです
僕 それは良かった。喜んでくれてなによりだよ
早起きからのディズニーランド歩き回りにアルコールは効く
僕も藤田もかなりいい感じで酔っていたと思う
藤 1つ確認したい事があるんですけど、いいですかね?
僕 何かな?
藤 私達って、もう付き合ってるんですよね?
僕 それはどうかなぁ?
藤 何でですか?
僕 仲良くなってる事は間違いないと思うよ
藤 んー・・・
藤田は少し考えて
藤 じゃあ質問を変えます
藤 絶対に白黒はっきり答えてくださいね
僕 ・・・
藤 いいですね?
僕 いいよ・・・
大きな瞳で僕を真っ直ぐに見ながら藤田
藤 正式に私とつきあってもらえますか?
僕 ・・・
僕 ・・・
僕 今、それ答えてもいいのかな?
慌てて藤田
藤 ちょっと待ってください
藤 やっぱりいいです
藤 今度にします
僕 わかった・・・
苦笑いしながら藤田
藤 でも何でですか?
藤 奥さんの事とかですか?
その話の流れだと、僕が拒絶している事前提である
結果は明確にしないのに、理由は知りたいらしい
ま、気持ちはわかるので細かい事は気にせず、この質問に答える
僕 もう1年以上経ってるから妻の事はさほどきにしてないよ
僕 全然と言えば嘘になるけど、それは理由じゃない
妻の事を理由にしておけばこの場はやり過ごせただろう
でも、真っ直ぐに向かってくる藤田に対して、僕も真摯に答えてあげたかった
藤 じゃあなんでですか?
藤 私の事が嫌いなわけじゃないですよね?
藤 寧ろ結構好きになってくれてますよね?
眞紀に対する僕のようだ
いや、ぼくよりも真っ直ぐに気持ちをぶつけていると言っていいだろう
では何故僕は藤田の気持ちに応えれれないのかと言うと・・・
藤 他に好きな人がいるんですね?
僕 ・・・
そう
僕は未だに眞紀が好きなんだと思う
藤田と眞紀を比べているわけではない
なんだろうか?
眞紀以外の女と付き合う気が起きないのだ
だとしたら、真っ直ぐに向かってくれる藤田に甘えてはいけない
藤 もしかして・・・
藤 真木さんですか?
?
どこから出てくる?
その人の名前は、どこから出てくるの?
僕は明確に狼狽していたが、どうにかとりつくろいながら
僕 真木さんって、うちに前いた真木さんの事?
藤 そうです
僕 なんでそうなるの?
藤 いや、真木さんが辞める前に何度も二人でランチしてたんでしょ?
藤 岬さんとか渡辺さんが言ってました
僕 そうかもしれないけど二人きりじゃないよ(嘘)
僕 そもそもなんで彼女達が藤田にそんな事言うわけ?
藤 それは・・・
藤 私と課長がしょっちゅう飲んでるのを見られてて・・・
藤 岬さん達に課長は誰にでも優しいって言われたから・・・
藤 でも、そうですよね
藤 真木さんはもういないし、真木さんの方が課長より年上でしたよね?
僕 ま、関係ない話しだね
本当は年上であろうが、そんな事は関係なく眞紀がいかにいい女であるかを知らしめてやりたかったが、誰も得しない事を言っても仕方ないのでやめておいた
藤 じゃあなんでダメなんですか?
僕 ・・・
僕 やっぱり妻の事が気になってるのかもしれないね・・・
この場は妻のせいにしておかないと眞紀の話題から逃れられないような気がした
苦肉の策である
藤 そうですよねー
藤 やっぱり私はもっと待ちます
いやいや、待たなくていいから・・・
僕は藤田の気持ちに応えられないなら、思わせぶりな態度はとるべきではないと改めて胸に刻んだ
僕 藤田の事は好きだけど、それは恋人とかそんなんじゃないのよ
僕 もし、そんな気持ちにさせたなら、それは僕が悪いんだよね
僕 藤田はどんどんいい女になってるから自信持っていいと思うよ
悲壮感無く藤田は続ける
藤 なんとなくわかってたけど、実は急いだのには理由があるんです
藤 聞いてもらえますか
僕 もちろん聞くよ
藤 実は最近、百瀬さんにいろいろ誘われてるんです
僕 は?
僕 百瀬ってうちの百瀬の事だよね?
藤 そうなんですよ
僕 お前らって天敵同士じゃなかったっけか?
藤 え?
藤 そんなの知らないですよ?
僕 いや・・・気にするな僕の勘違いだ
怪訝そうな顔はしたが藤田は続ける
藤 私は百瀬さんよりも課長の方が気になってるんです
僕 うん。ありがとう
藤 でも課長に可能性がないなら、百瀬さんもいい人だと思うんですよ
僕 そうか
藤 で、申し訳ないけどハッキリさせて次に進みたかったんです
僕 藤田は真摯だね
藤 紳士ですか?私女なんですけど・・・
僕 真摯ってのは、正直で純粋と言う意味だよ
藤 そうなんですか・・・
僕 僕も藤田は好きだけど、それは何度も言うように藤田の望むソレじゃない
藤 はい
僕 今の藤田なら、百瀬が好きになるのも仕方ないよ
僕 藤田は本当にいい女になった
藤 照れます・・・
僕 だから百瀬が藤田に来るなら、藤田は見てあげればいいよ
藤 そうします
藤 でも・・・
僕 でも何?
藤 もし私が百瀬さんと結婚とかしたら・・・
僕 そうだね
僕達は声を合わせて言った
百瀬桃香(ももせももか)になるんだ!
藤 真木眞紀さんみたいですね
僕 そうだね・・・
僕は藤田を駅まで送った
藤田は僕と腕を組む事もなく、以前と違い背筋を伸ばして颯爽と歩いていった
その夜、僕は藤田を失った事を再認識したが喪失感はなかった
そして久しぶりに眞紀の事を多めに思い出していた
それはきっと、藤田の口から眞紀の名前が何度も出たからだろう
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