プレゼント
8月も終わろうとしていた頃、特に誰かに祝われる事もなく僕は1つ年を重ねた
妻がいた頃は、一応ケーキなどが用意されていたものだ
もっともケーキを喜ぶのは子供たちであり、僕は一応の味見をする程度だったが、それでも節目のお祝いをしてくれる家族がいるのは嬉しいものだ
こんな時、男の子だけだとつまらないものである
藤田に伝えれば何かしらのお祝いをしてくれるかもしれないが、僕は敢えて誕生日を教える事はしなかった
それでも律義にラインは来る
そう、眞紀からのラインは来るのだ
眞 誕生日おめでとう
派手なデコデコのラインである
僕:ありがとう、少し眞紀に追いついたよ
眞:今年の誕生日は祝ってもらえた?
僕:家族だけね
眞:それが一番嬉しいでしょ?
僕:そうだね
眞:また連絡するね
僕:ありがとう
定型のやりとりだが眞紀の無事を確認できてなんとなく嬉しかった
今でも多分綺麗なんだろう
逢いたいけどそう簡単には逢えるものではない
妻の件は未だ伝えたくないので、その事は省いた定型の挨拶を僕は送っていた
藤田ともラインは交換しているが、連絡は最低限しかしていない
藤田の場合、釘をさして置かないと業務中でも平気でラインしてくるので、基本最低限の連絡以外はラインをしないようにお願いしている
なので
藤:明日の夜はどうですか?
僕:18時くらいからならいける
藤:ではいつものお店で
僕:OK
こんな感じ
藤田とは週1で飲んではいるが、休日に出かけた事もなくドライブに行った事もない
家に招待したのも、あの1回だけ
進展はしないようになんとなく会っているだけ
キスどころか手を繋いだことも無いが、腕は毎回組んでくるのでそれは黙認している
随分と偉そうに上からモノを言っていると思われるかもしれないが、妻を亡くして1年半、距離が離れているとはいえ大好きな女がいる状態で藤田との関係を進めるのは僕にできる芸当ではない
ただ、真っ直ぐに僕に向き合ってくれる藤田に少しづつ魅かれている自分がいる事も否定はできない
無論、藤田もパートナーと別れてから1年半
なりふり構わず突っ込んでくるわけでもないらしい事は、僕にも感じ取れていた
そして今夜もいつもの店で飲んだ
藤 そういえば課長って何歳なんですか?
僕 46になりました
藤 なりましたって、いつなったんですか?
僕 先々週
藤 え?
藤 何で教えてくれなかったんですか?
僕 もう誕生日が嬉しい年じゃないんだよ
藤 それにしても冷たいじゃないですか・・・
藤 私だって祝いたかったですよ
僕 そっか、じゃあ今祝ってもらおうかな?
藤 誕生日おめでとうございますwwww
僕 ありがとう
僕 で、プレゼントは?
藤 え?プレゼントですか?
僕 嘘だよw祝ってくれるだけで充分嬉しいから
なんかバックの中をゴソゴソ探している藤田
なんか用意してるのか?
藤田はバックからリボンを出し、それを自分の首に巻いた
そしておもむろに
藤 はい、プレゼントです
僕 は?
藤 だからープレゼントです
僕 ?
藤 プレゼントは私ですw
藤 ワ・タ・シ
固まる僕
気の利いた返事どころか、不覚にも全く返事ができなかった
藤 あれ?
藤 もしかして引いてます?
藤 サプライズですよサプライズ
僕 サプライズってこういうのだっけか?
藤 驚いたでしょ?
僕 驚いたよ
藤 じゃあサプライズ成功ですね
僕 サプライズってドッキリだっけか?
藤 違いますよ
僕 なんにしろ驚いた、完敗だね
藤 やったー!初めて課長に勝ったw
藤 ご褒美くれます?
僕 プレゼント貰うのは僕じゃないの?
藤 だからあげましたよね?
僕 ・・・
藤 それで私のご褒美ですけど
僕 何がいいの?
藤 私、来週の土曜日が誕生日なんです
僕 そうなんだ
藤 どこか連れて行ってくださいよ
タイミング良すぎて少し怪しいが、そんな嘘をつけるような器用な娘ではない
僕 どこがいい?
藤 いいんですかw
僕 誕生日なんでしょ?いいよ
藤 じゃあディズニーランド!
僕 いいよ
本当はかなり躊躇したが、ここで即答するのが漢だと自分に言い聞かせた
藤 超嬉しいです!超超超嬉しいです!
相当な数の蝶が飛んでいたみたいだが、ここまで真っ直ぐに喜んでくれると僕も嬉しくなる
僕 そんで、いくつになるの?
藤 聞くんですか?それ・・・
僕 ま、祝うわけだし、聞くよ
蚊の鳴くような声で
藤 くぁwせdです
僕 は?聞こえない
藤 くぁwせdです
僕 全然聞こえない
藤 30です!
聞こえていたが、さっきの仕返しだ
でも30歳か・・・
結構離れてるな・・・
帰り際、駅へ歩く途中
藤田は首に巻いたリボンを持ち上げながら
藤 コレ、どうしますか?
僕 そりゃあプレゼントされたからには貰うよ
藤 え?
僕は藤田の首に巻かれたリボンをほどいて
僕 リボンありがとう。大切にするよ
藤 やっぱり課長の方が全然上ですね・・・
諦めたような、それでいてホッとしたような笑みを浮かべる藤田
僕は藤田の手を握り、駅までの道をゆっくりと歩いた
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