奢られる予定

「だから、どうしてこんな事になるわけ?」


「私はもうフォローできないから、後は自分でどうにかしなさい!」


聞きなれた声が部屋に響き渡る

事情通の女史=あの藤田さんの上司=宮崎さんの声だ


そして、あの藤田さんが僕のところにやって来る


藤 すみません。野里課長、今お話しよろしいでしょうか?


僕=野里(のざと)である


僕 はい。そこに座ってください

藤 ありがとうございます

僕 それで、どうしましたか?

藤 くぁwせdrftgyふじこlp;

僕 落ち着いて、1つ1つ順を追って話して

藤 くぁwせdrftgyふじこlp;

僕 落ち着いて、ゆっくりと

藤 実は私が受けたお客さんの・・・・・以下略


僕 だいたいわかりました

僕 それは確かに本社の対応も遅いと思いますが・・・以下略


藤 そうなんですよ、なので・・・以下略

僕 でも藤田さんも一旦お客様に連絡しておけば・・・以下略

藤 それはそうなんですけど・・・

僕 とりあえず僕がお客様に対応しておきます

僕 なので藤田さんは再度・・・以下略

藤 わかりました。それはキチンとやっておきます

僕 それではよろしく

藤 ありがとうございました

藤 いつも本当にすみませんです

僕 どんまいだよ


そんなに複雑な事象ではないのだが、一旦パニックになると状況の整理を当人がするのは難しい

もっと対処に困る事も何度かあったが、今日のはイージーな案件で良かった


直後、宮崎さんから


宮 野里課長、ちょっといいですか?

僕 はい。あっちに行きましょうか?

宮 そうですね


僕と宮崎さんは、通称説教部屋と呼ばれている小部屋へ移動

この部屋で説教がなされる事はないが、大きな声で話せない話しはここでするのがうちの部署の常なのだ

できれば色っぽいハナシをこの部屋でされてみたいものだが・・・


宮 いつも本当にすみません

僕 いいよ。たいした問題じゃ無かったし

僕 次回同じケースがあれば本人が対処できると思うよ

宮 野里課長は甘いです!

宮 あの藤田を全然わかってない!

僕 そうかもしれないけど・・・

宮 しれないじゃなくて、そうなんです!

僕 だとしても、今起こってる問題を解決しないわけにはいかないでしょ?

僕 客は我々の練習台ではないんだから

宮 それはそうですけど

僕 今回はね、とりあえず僕が直接・・・

宮 全部聞こえていたので説明不要です

宮 野里課長の案で問題無いと思います

僕 んじゃ、そういう事で


僕は先に説教部屋を出ようとした


宮 野里課長

僕 なにか?

宮 いつも本当にありがとうございます

僕 うちの若いのもお世話になってるから、お互い様だよね


藤田さんの後始末時の、何度かに1回行われる儀式である

ちなみに津島と百瀬は宮崎さんの指導こそ受けてはいるものの、後始末を宮崎さんにさせた事は僕の知る限り一度もないはずである

優秀な後輩に恵まれて僕は楽をしている

なので、藤田さんの後始末くらいならお安い御用なのだ




ちょっとした事件はあったものの、いつも通りに仕事を終え、僕は会社を出て駅に向かった


すると出口に藤田さん


僕 お疲れさまー

藤 お疲れさまでした


駆け寄ってくる藤田さん


藤 あのー課長は少し時間ありますか?

僕 あるよ

藤 では少しいいですか?

僕 いいよ


会社に戻ろうとする僕に藤田さんが言う


藤 じゃなくて・・・

僕 ん?

藤 いつもお世話になってるので、一杯奢らせてください

僕 二人で?

藤 まずい・・・ですかね?

僕 いや、問題ないだろう

藤 ですよねーw

僕 わかった、じゃあ一杯だけ奢ってもらおうかな

藤 はい。何処で飲みますか?

僕 藤田さんの好きな店でいいよ

藤 じゃあ行ってみたかったお店があるんですけど

藤 そこに連れて行ってもらってもいいですか?


ん?

お前が奢るんじゃないんかい?

と、思ったが特に触れずに藤田さんの歩く方についていった


藤 ここです


あ・・・

ここは・・・

眞紀と初めて飲んだ店・・・


藤 ここで飲んだ事ありましたか

僕 あるよ

藤 ここでいいですか?

僕 いいよ。ここで


適当に注文して飲み始めた


藤 いつも本当にスミマセンです

僕 いいよ別に、仕事だから

藤 宮崎さんは助けてくれないから・・・

僕 ま、でもいずれ藤田さんも後輩できるだろうから

藤 そうですよねー

僕 少しづつでもいろいろ出来るようになればいいから

藤 頑張ります




僕 ところで、お子さんそろそろ2歳くらいだっけか?

藤 そうですね

僕 可愛いさかりだろうよ

藤 それが・・・

僕 ?

藤 会ってないんですよねー

僕 は?

藤 この事は宮崎さんしか知らないんですけど・・・

藤 私・・・

藤 去年離婚したんですよ


僕は口に含んだワインを吹き出しそうになるくらい驚いた


僕 マジで?

藤 はいマジです

僕 そうなんだ

藤 そうなんです


沈黙が流れる


藤 理由とか聞かないんですか?

僕 言いたく無いでしょ?

藤 別に大丈夫です

僕 聞いて欲しいなら聞くけど・・・

藤 聞いてください


いまいちよくわからなかったが、藤田さんは義母との折り合いが全くつかなかったらしい

加えて旦那さんも藤田さんの味方をしてくれるわけでもなく、子育ての事で揉めて拗れて離婚になったようだ

親権は旦那さん側で、その事について藤田さん自身はさほど頓着がなく納得しているらしい


途中から旦那と義母の愚痴を聞く会になってしまったが、最後まで聞き、極めて一般的な助言をしてその日は帰った

駅までの道で、酔った藤田さんがよく見れば可愛い顔をしているとは思ったが、全然そんな気にはなれず、寧ろ出来の悪い娘を心配する父親の心境だったと思う

相当酔っていた藤田さんは僕の腕を抱え、なかば抱き着いてくるような状態になっていたが、藤田さんの路線まで送り届け改札をくぐらせた

多分、どうにかして帰りついてくれたと思いたい


結局奢られる予定はどこかへ消え去り、支払いは僕が済ませていた


ついでに、藤田さんが意外と巨乳だった事を僕は初めて知った


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