大黒ふ頭で虹を見て

小川三四郎

あれから僕は

令和4年4月


僕は45歳になり、社内では課長と呼ばれるようになった

津島は主任になり、彼にも百瀬と言う後輩ができた

当然、百瀬は僕の部下でもあるので

僕>津島>百瀬

こんなヒエラルギーが成立する


仕事は相変わらずで、良くも悪くも平和な時が流れている

ここで一応、僕を含めての登場人物をおさらいしておこう


津島

31歳。バツイチ

仕事はできるが、私生活での決断力は皆無

良くも悪くも空気のような後輩


百瀬

30歳。未婚

眞紀がいなくなった直後に中途採用された後輩

お調子者でとにかく明るい

仕事はまじめにやってくれる頼りになる後輩2号


斎藤さん

36歳くらい。既婚

子供はいない

眞紀の親友でもあり、今でも親交はある様子

当然、僕と眞紀の過去を知るわけもないので眞紀の話題をする事はない


あの藤田さん

眞紀がいなくなった数か月後に産休から戻って職場に復帰

相変わらず色々とやってくれるが、僕はもう慣れた

彼女の後始末も僕の仕事になっている

津島・百瀬の天敵


事情通の女史

そろそろ50に手が届くだろうか

実質的に女史と僕で仕事を廻している状況

あの藤田さんの直属上司

僕にとっては仕事上一番大切な人


真木眞紀

3年前にご主人の都合で大阪へ

短い間ではあったが僕の元恋人

当時はいわゆるW不倫状態

距離を超えてまで逢ったりはしないが季節の挨拶ラインはなんとなく続いている



45歳・子供2人

眞紀以前にも、眞紀以降にも恋人など作った事はない

3年前と大きく変わった事が1つ







僕は妻と死別していた


享年43歳

僕が妻から癌の告白を受けてから1年

若いからだろうが進行が早く、あっと言う間に妻は亡くなった

丁度1年前の4月1日

エイプリルフールの嘘だと思いたかったが、病院からの電話にそんな嘘があるはずもなく、妻は本当に逝ってしまった


時系列からすれば、妻が医者から癌の宣告を受けたのは僕が眞紀にうつつを抜かしていた頃である

妻は怪しんでいる素振りを見せないようにしていたが、本当は気づいていたのかもしれない

それどころか妻には隠したい癌と言う事実があったわけで、僕の事を詮索する余裕などなかったんだろう

そう思うと、今更ながら申し訳ない気持ちでいっぱいになる


妻は僕ごときには勿体ないほど優秀で綺麗でしっかり者だった

妻に家計を任せる事で、僕はお金の心配を全くせずに過ごせたのは揺るぎない事実

僕は妻を愛していたと言うよりも、完全な家族としての確かな絆があったと思う


そして僕は眞紀へ妻が逝った事を報告していない


いざ、自分が自由な立場になって解った事だが、到底そんな事を恋人に言う気分にはならないのである

万が一僕が自由になった事で眞紀が迷い、ご主人との間に亀裂が生じてしまうのも本意ではない

眞紀には幸せに過ごして欲しい


お互いが自由になったら、いつか一緒に暮らしたい


なんて事を語り合ったこともあるが、それはもっともっと先の事

羊羹友達くらいの感覚だった


僕の子供たちは、

「母親の事は仕方ないので親父も自由にして、嫁さんとかもらってもいいよ」

と毎度僕に気をつかって言ってくれる


出来た息子達だ


でも、今僕はそんな気には到底なれない

そもそも眞紀と終わった時に、もう二度と誰かを好きになる事はないと決めていたのだ

そう二度とだ



45歳。バツイチ(死別)

子供二人

不倫の前科あり


これが今の僕・・・






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