第87話 誕生日(浩一郎side01)
タクシーで乗り付けた実家は相も変わらず大層ご立派な豪邸だった。
両親とも留守がちなのに手入れもちゃんとされている。
無駄に金かかってやがるなあ。
「ちょっとちょっと水元くん!」
タクシーから降りてくるなり日下部さんがえらい剣幕だ。
「何なのよこの大豪邸! どういうこと!?」
どうと言われましても、
「だからコレが俺の実家ですってば」
「……マジで?」
「……マジで」
「キミの親御さん何か悪いことに手を染めてない?」
「悪徳商法じゃな……くもないか? うーん」
世間一般(?)の冒険家の人は知らないが、親父のやり口はあくどいのではないか、と勘ぐってしまうなあ。
「ええぇ」
などとやっていると、自称冒険家のクソ親父が玄関から迎えに出てきた。
「ああ、ようこそ。お嬢さん。浩一郎もご苦労だったな」
「やっぱ
「スーツ姿のままでご無礼致します」
丁寧な謝罪を口にする日下部さんに、親父は鷹揚に頷いた。なお、日下部さんが謝る必要は皆無である。
「お嬢さん、はじめまして。私はそこの愚息の父、水元源気です。いつも愚息がお世話になっていると伺い、急で申し訳ないと思ったのですが、招待させていただきました。快くお受けいただき感謝しております」
「いえ、こちらこそ、ご招待いただきありがとうございます。日下部椿と申しま――って、あの、今、水元源気さんって仰いました、よね?」
「そうですが何か」
ニヤリ、と親父が笑った。よかったな親父。いいリアクションもらえて。
「あの、世界的冒険家の? ゲンキ・ミズモト?」
たまに知ってる人がいると実に嬉しそうにするのだ、この親父は。
「そうです! 私が、そのゲンキ・ミズモトです。いやあ嬉しいですなあ。そういった反応をされるのは久しぶりですな! 何度されても大変気分がいい! はっはっは! うちの愚息からは聞いておりませんでしたか」
「ええちっとも」
ギロリ、と日下部さんに睨まれた。おお怖い怖い。
「親の話なんぞ会社でするもんかよ」
けっ、と悪態をついていると親父の後ろからお袋が姿を現した。
並ぶと派手だな
「もう~、こうちゃんは相変わらずパパと険悪よね~。駄目よ~。もういい大人なんだから仲良くしなくちゃ~」
自分の歳も考えずに派手なパーティドレス着てるよお袋は。胸元開き過ぎだ。
「あら、こちらの素敵なお嬢さんがこうちゃんの同僚の方?」
「こうちゃんはやめてくれ、お袋。もういい大人なんだから!」
「こうちゃんはこうちゃんでしょ~」
もういやだ。実家に同僚連れてくるとかどういう羞恥プレイだ。
「あ、こうちゃんの同僚の日下部椿と申します!」
日下部さんも笑顔で乗っからないで! ただ俺だけがつらい!
「椿ちゃんね~! 私は水元唯子っていうの~。ゆいちゃんでも唯子でも好きに呼んでね~」
「……水元唯子、さん? あの、写真を撮られてらっしゃいます、よね?」
「ええ~、まあ~。ちょこちょこっと~? 趣味の延長みたいな感じでね~」
趣味の延長であんだけ写真集は売れんぞ、お袋よ。
それにしても日下部さん博識だな。
「水元くん!」
そしてまた睨まれました。今度は怒声付きで。
「なんすかそんな興奮して」
「なんで世界的冒険家と写真家がご両親だって教えてくれないのよ!」
日下部さんがこんなにミーハーだとは思わなかった。
それはそれとして、親のことを教えたくなかった、っていうのはあるんだよなあ。
「親と俺は親子である点以外は関係ないですもん。あのふたりがどんな人間であるかと俺がどんな人間であるかは直接関係しないっす。今のそういう、親が何者であるかみたいなフィルターを通して日下部さんに俺を見られたくないですしね」
と、正直に言った。そもそも俺は世間ほどには両親を評価していない。というかできない。ガキの頃放置された恨みは根深いのだ。
「キミ、そういうとこだぞ」
「なにがです?」
あれ、怒りが収まってる。むしろなんかちょっと照れてるような。
「なんでもない! まあいいわ。折角だから今後のこともあるしご両親とは懇意にさせていただくわ」
「椿ちゃん、折角だから~、お洋服のお着替えない~?」
「あ、でも、スーツしか持ってきてないですし」
「ちょっと古いデザインになるけど~、私の若い頃のがあるから~。良かったら写真も撮らせて欲しいのよね~。椿ちゃんスタイルいいし~、美人だし~」
「み、水元くん」
助けを請う日下部さんに俺は首を横に振った。
「お袋がああなったら無理です。諦めてモデルになってファッションショーやってきてください。好きな服あったら持って帰っていいですから。お袋も快諾すると思います。モデル代ということでご査収ください」
「パパ~、こうちゃん~、そういうわけだから椿ちゃんちょっと借りるわね~」
着いた早々玄関先でこの騒ぎかよ。
先が思いやられるな……。
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