第73話 虚仮

「んだコラテメエ。だれがゴリラだ」

「中坊の癖に威勢いいじゃねえか!」

 どうやら馬場くんが絡まれていますね。相手は三人ですか。私たちと同じく修学旅行中の高校生のようです。なんと幼稚な。修学旅行を一体何だと思っているのでしょうか。


「馬場くん! 代わります。リンカ、カナデ、皆さんとさがっていてください」

 私はすっと前に出て、馬場くんの横へ。

 個性的な髪形の高校生が三人。威嚇的な表情と動きですが、隙だらけです。どうということもありません。

「お? なんだ? この銀髪のかわいいねーちゃんが相手してくれんのか?」

「このような場所で不埒な。恥を知りなさい」

「はあ?」

 御父様が言っていました。人を虚仮コケにする方は自身が同じことをされると激昂するものだと。そして、激昂した人間は足元が疎かになる、とも。身体的にも、精神的にも。

「愚かな高校生の方には言い回しが少々難しかったデスカ? 恥知らずの馬鹿め、と言ったのデス」

「てめえ!」

 その言葉と同時に前傾姿勢に。私は前に出ます。

 馬場くんとすれ違いざま、短く指示。

「全員をまとめてバス駐車場の方へ。なるべく急がせて。私もすぐに追いつきマス」

「おい水元!」

 待て、という言葉を聞き終えるまでには、私は全てを終わらせていました。

 

 三人の隙間をすり抜けるようにして歩き、踵での踏みつけにより足の甲へ痛撃を与え、うずくまった頭にくしゃくしゃにした鹿せんべいを振りかけてさしあげあげました。すごい勢いで周囲にたむろしていた神の使い鹿さんたちが寄ってきます。ふふ、なかなか趣ある光景ですね。

「ナンパもケンカも相手を見てすることデス。身の程をお知りになると宜しいかと」


 私は公園を出て全力疾走、走るリンカたちにすぐに追いつきました。

 馬場くんが血相変えて心配してくれるのが少しくすぐったい気持ちです。 

「水元! お前無茶するなよな! オメエもその、女子なんだからよぉ」

「そうは仰いますけれど、私の実力を一番ご存じなのは馬場くんではないかと」

「うっ」

「なに? ババチン何かルールーにやったの」

「それがさあ、馬場きゅん、転入初日にさあ」

「その話はやめろ! やめてくれ! あん時は俺が悪かったから!!」


 二日目もたくさんの思い出ができました。

 浩一郎さんに話すのが今から楽しみです。

 もっとも、高校生徒のひと悶着については黙っておこうと思います。

 絶対に叱られますからね。


 撮った画像を今日もいっぱい浩一郎さんにに送りました。

 少しでも旅の雰囲気をお裾分けできたらいいな、と思いながら。

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