第80話 心情


 修学旅行三日目。

 家に帰るまでが修学旅行だ、と浩一郎さんも仰っていました。


 私は、京都駅の新幹線駅で先生方や添乗員の方の指示されたスペースに、クラス単位でまとまって待機しています。

 

 名残惜しいという気持ちと、一刻も早く帰りたいという気持ち。

 どちらもが強くあり、どちらもが真実ほんとうのものです。

 ふたつの気持ちがせめぎ合い、気分が落ち着きません。


「なんか今のルゥさ、『待て』の状態の犬みたいよ」

「リンカ。親しき仲にも礼儀ありデス。言いたいことは分かりますケレド、友人を犬扱いは好ましくありマセン」

「あー、ごめんごめん! なんか落ち着きないな! と思って! いつものルゥってすごい落ち着いてるじゃん」

「そんなことありまセンヨ」

 浩一郎さんの前ではいつもあたふたしてばかりですし。

「怖い先生や高校生のヤンキーの前でも落ち着いてる、ってか余裕じゃん」

「はあ、それはまあ」

 大した脅威ではないので落ち着いていられる、というだけの話ですので。

「なのに今は何でそんななのかなー、って。犬呼ばわりはごめん! この通り!」

 両手を合わせて拝み倒されました。

「以後気を付けまショウネ」

「はあい」

「けれど、今、気分が落ち着かないのは事実デス」

「そーなの?」

「リンカはどんな気分ですか?」

「疲れた。早く家帰ってお風呂入って寝たい。って感じ」

 確かに随分お疲れですね。ずっとはしゃいでいましたからね。

「私もほぼ同じデス。ただ、その気持ちに、はじめての旅行への名残惜しさが加わって、ちょっと落ち着かないのデス」

「はー。そーゆーもんなのかー」

「そういうものデス」


 それらとは別に、また来たい。今度は浩一郎さんと一緒に。

 という想いもありますけれど、言葉にしないのが花というものでしょう。

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