第78話 冒険
中学三年の俺は、どことも知らぬ国の空港で降ろされ、親父に連れられ、これまたどこだかわからない港から誰の持ち物かも不明のヨットに荷物と一緒に積み込まれた。
その間、親父はヨットの持ち主だかクルーだかと明らかに英語とは異なる言語で談笑していた。
やがて俺の横にやってきて、
「どうだ浩一郎。ワクワクするだろう?」
親父は笑顔全開でそんなことを言うのだった。
急転直下の展開に胸のドキドキが止まらないのは間違いないが、これをワクワク感というのは違う、と当時の俺は思って首をぶんぶん横に振った。
「そうかそうか! まだまだ足りんか! がはははは!」
「……!!」
俺は声にならない悲鳴を上げた。
ヨットは例によってどことも知らない国のナントカという島を目指していた、らしい。らしいというのは、実際にそこに辿り着くことはなかったからだ。
誰も予想しなかった荒天に巻き込まれヨットは沈没、親父と俺、船長や数人のクルーは生死の境を彷徨った。
その後の漂流の果てに、ルゥさんの親父さん、今は亡きウォンおじさんに命を救ってもらうことになった。ウォンおじさんは集落の人たちの静止を振り切ってまで俺たちを救いに来てくれたそうだ。
「いやー、あぶないところだった。死ぬかと思ったぞ」
「親父、アンタって人は……」
悪びれもせずにカラカラ笑う親父に俺は怒りを通り越して呆れることしかできなかった。
「ラッキーだったな」
「ああ。なんとか助かってよかったよ」
「そうじゃねえよ。はじめての冒険でこんな体験ができて浩一郎はラッキーだったな、って意味だよ」
マジかこの親父。
だが本気だった。
本気でそう思ってそう言っていた。
「俺はちょっと御礼がてら集落を見て回ってくるわ。浩一郎は寝とけ」
俺はまだ回復しきれておらず起き上がれなかったというのに、親父は平気でひょいひょい散歩に出かけて行った。底無しの体力、というのはああいうのを言うのだろう。
親父の遠い、遥かに遠い背中を見ながら、俺は意識を失った。
そして、俺が目覚めるまでに、例の許嫁の約束が取り交わされていた、ということらしい。でもってそんな話を聞くのは十四年ほど先の未来のことになる。
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