第70話 自由


 班別の自由行動。

 修学旅行二日目の一大イベントです。


 奈良か京都どちらかで事前に提出した計画書の範疇で自由に行動できる、というもので、私はこの時間が楽しみで楽しみで仕方ありませんでした。


「ルゥ、楽しそうだね。行くの奈良公園だよ?」

「そうデス! 鹿がいっぱいいるそうデスネ!」

「鹿のフン目当てのフンコロガシもいっぱいいるらしよ。ガイドブックに書いてあったし」

「それは大変興味深いデス!」

 私は到着前から興奮気味でした。


 鹿。

 鹿。

 鹿。


 そこら中に鹿がいます。

 これだけ数がいたら、故郷の集落は冬を楽に越せま……いけません。奈良公園の鹿は神の使いとして古来から保護されているのです。私としたことがつい。役畜扱いはいけませんね。


「ルールー! ムッキー!」

 大声をあげて走ってくるのはカナデです。

 あ、転びましたね。

 顔に鹿のフンがついてしまってます。ハンカチで顔を拭いて差し上げながら、

「どうしまシタ?」

 と尋ねると、

「私も一緒に行っていい?」

 などと言い出しました。

「カナデはクラスも班も違いマスヨ」

 自由とはいえ班別行動で、これはいいのでしょうか。

「バレなきゃ大丈夫よ! お願い! ルールーの班ってババチン一緒なんでしょ?」

 たしかに六人でひとつの班を構成しています。

 概ね男子女子それぞれ三人ずつ。

 なるほど、カナデは馬場くんと一緒に回りたいわけですね。

 カナデと入れ替わりになる(予定)の女の子の鼻息も荒いです。

 彼女は頬を紅潮させて、

「その分、私が抜けるからさ。望月さんの班の男の子に用があるのよ!!」

 恋のパワーですね。誰かを想うことは原動力になります。素敵なことです。

 しかし、

「どうしたらいいデショウ?」

 浩一郎さんなら「ルールは守るべきだよね」と言いそうです。

 一方で「そいつらが勝手にやることまでルゥさんが背負いこむ必要はないよ」とも言いそうです。浩一郎さんもなんだかんだオジサマと同じようなことを言いそうだな、と思い、くすりとしてしまいました。

「ま、いいんじゃない? あたしら悪くないし」とはリンカの言。リンカも考え方の系統がふたりに似ていますね。

「そうデスネ」

 となると、私にはやるべきことがあります。


「馬場くん、ちょっとよろしいデスカ?」

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