第24話 買物


 買物は、浩一郎さんについて移動するのがやっとで、何が何やらわかりませんでした。日本は街も、道も、電車も複雑すぎます。


 家具、生活雑貨を扱う大変に大きな二階建てのお店でベッドや布団、タオル、食器、歯ブラシなどをカートいっぱいにまとめ買い。

「あの、浩一郎さん、こんなに持って、このあと移動できるんデスカ?」

「自宅に届けてもらうんだ。そういうサービスがあるんだよ」

 なるほど。

 それはとても便利です。


 その後、街の地下へ降りる階段の先にある別の電車――地下鉄というそうです――に乗って、また移動。


 浩一郎さんは、

「好きな服選んでいいよ」

 と仰るのですが……。

 私自身、何を選んでいいのやら途方に暮れてしまいます。島では似たような簡単な服ばかりでしたし。日本の、装飾の多い服は良し悪しがわかりません。


 困っているとお店のスタッフの方らしき女性が、

「お客さん、めっちゃ可愛いっスね! ちょっと試着とか、してかないスか?」

 とフランクに声をかけてこられました。

 どうしたものかと浩一郎さんに視線を向けると、うんうんと頷いているので、お店のスタッフの方にお任せすることにしました。

 結果、自分で着こなせるのかわからない量の服のお支払いを、浩一郎さんにお願いする羽目になってしまい、大変申し訳ない気持ちです。


「お店の方は商売上手デスネ。ごめんなサイ」

「ルゥさんが可愛かったから、色々着せたかったんじゃない?」

 しれっとそんなことを言われたら、もう何も言えないじゃないですか。

 こんな風に簡単に可愛いって言ったり、言ってから照れたり、不思議な人です。


 服は流石に宅配、というわけにはいかず、大きな紙袋をふたりで分担して持つことになりました。

 最後に浩一郎さんは愛想の良いそのお店のスタッフの方に「女の子の下着を買うにはどこへ行くのが妥当か」という旨の質問をこっそりしていました。私の、ですよね。


 真っ赤になる浩一郎さんを見てお店のスタッフの方は白い歯を見せ、「私、もーすぐ上がりだから、せっかくだし案内しましょーか? 安いとこ知ってるし」と仰いました。

「大変助かりマス」/「大変助かります」

 私と浩一郎さんは二人同時に頭を下げたのでした。


 なんとか下着を購入できたところで、お店のスタッフの方とお別れしました。

「また来てねー!」

 と両手をぶんぶん振ってくださいました。年上でしたが元気で可愛らしい方でした。

「とても良い方でシタネ」

「うん。助かったよ」

 浩一郎さんは心底ほっとしているようでした。私もです。

 


 帰り道もほぼ電車での移動です。

 浩一郎さんの自宅に一番近い駅まで、電車に乗って移動します。

 よく考えると今日1日でとんでもない距離を移動したのではないでしょうか。故郷の島何周かはしているのでは。

 果たしてこの複雑極まる経路を私は覚えることができるのでしょうか……。


 一抹の不安を覚えつつ、夜の街を走る電車の窓に映る自分の顔を見ていました。

 耳には母の形見のイヤリングがついています。まだ子供の私には似合わない代物でしたね。ちょっと気がはやっていたのかもしれません。


 ただの買い物なのに、デート気分で。


 ふう、とため息。

「疲れちゃった?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「ごめんね。今日はバタバタしちゃったけどさ、今度はさ、もう少しゆっくり街に出てみようか」

 突然、浩一郎さんがそんなことをおっしゃるので、つい、

「それはデートのお約束ですか!?」

 と大きな声を出してしまいました。電車の中の幾人かがこちらを見ています。反省です。はしたない。

「デート、かな。まあ、ルゥさんがこんなオッサン相手でもデートでいいなら」

 頬をぽりぽり掻きながら、ご許可くださいました。


 浩一郎さんと、デート。

 楽しみで、嬉しくて。

 ふふ、と自然に笑みがこぼれます。


「ルゥさん、今日の買い物、そんなに楽しかった?」

 浩一郎さんは頓珍漢ですね。そんなところも好ましいですけれど。


 御父様、それにオジサマ。

 私は浩一郎さんと上手くやっていけるのではないかと思います。

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