第23話 形見
翌日は、浩一郎さんと一緒にお買い物へ行くことになりました。
なんでも「一人分の生活物資しかない」のだそうで、「ルゥさんのあれこれを買わないとね」というお話をされた時、
「滅相もないデス! 置いていただけるだけでも十分デスのに!」
許嫁とはいえ、浩一郎さんご自身はまだまだ納得されていないご様子。
にもかかわらず、これ以上甘えるのは大変申し訳ないと感じるのです。
「ルゥさん」
浩一郎さんは少し意地悪に笑って、
「許嫁に不自由な思いをさせたくない、っていう俺の気持ちを汲んでくれないかな?」
そのように仰いました。
「うぅ」
浩一郎さんはずるいです。
こういう時には「許嫁」という言葉を平気で持ち出すのですから。
でも、こういう言い方はオジサマによく似ていて仄かな、けれど確かな優しさを感じさせるものでした。
「そういうことでしたら、致し方ありまセン! 私も身支度をいたしますので少々お時間をくだサイ」
「ああ、うん」
「いえ、その着替えたいので、その。浩一郎さんが見たいと仰るのでしたら、恥ずかしいデスガ、それはそれでやぶさかではないデスヨ?」
「ごめん! 外で待ってる。気が付かなくて申し訳ない!」
慌てて外に出ていく浩一郎さんを、こっそり笑って見送り私は気合いを入れました。故郷の島から持ち出した数少ない荷物から、御母様の形見のイヤリングを取り出し、オバサマに空港で買っていただいたワンピースに着替えます。一緒に買っていただいた(買っていただいてばかりで本当に申し訳ないと思います)チェック柄の可愛い靴を履いて、準備万端。
「お待たせしまシタ!」
玄関から外に出ると、浩一郎さんはこちらを見るなり、目を丸くされました。
「どうか、なされまシタカ?」
「いや、可愛いな、って、思っ……」
そこまで言って、ご自身の言葉に照れてしまわれました。真っ赤になって俯いてしまわれました。その浩一郎さんのお姿の方が余程可愛らしいです。
貴方のその瞳に映る私は、貴方に相応しいでしょうか? どうでしょうか?
今の私にできる最大限の背伸びを、素直に、可愛い、と評してくださるのは、友愛の気持ちでしょうか? それとも恋心になりうるものですか? 親心だとしたらちょっと残念に思います。
けれど残念がったり不安に思ったりしている時間が勿体ないです。
これからです。
これから私に恋していただけば、良いだけなのですから。
「さあ!参りまショウ、浩一郎さん。買うものは沢山あるのデスヨネ?」
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