第17話 後見
御父様が亡くなったのは、御母様の亡くなった四年後でした。
お医者様のいないこの島では、人は簡単に亡くなるのです。実に、簡単に。
この時もオジサマは来てくださいました。
きっとお忙しいでしょうに、すべてのお仕事を投げうって、こんな辺鄙な島までやってきてくださったのです。
その時、はじめてオバサマにもお会いしました。
放心状態でいる私をオバサマは優しく、けれど強く、抱きしめてくださいました。
御母様と同じ匂いがして、私は泣いてしまいそうになりました。
けれど、泣きませんでした。
あの日、決して泣かないと、笑顔でいると、決めておりましたので。
御父様のお墓は、御母様の隣に建てていただけました。
村の皆さんがご配慮くださったのではなく、オジサマが交渉をなさって、そのように取り図らせたということは、ずっとずっと後になって知りました。おそらくお金を積んでまで、そうしてくださったのでしょう。御父様と御母様と、私のために。
御父様の簡素な、とても簡素な葬儀が行われた日、オジサマから提案がありました。
私の後見人になってくださる、とのお申し出でした。
そして、日本で暮らさないか、と仰るのです。
それも、許嫁の、浩一郎さんと同じ家で。
オジサマとオバサマには世界中で仕事があって、後見人という立場にはなれるが生活を共にすることはできないそうなのです。それならいっそ、将来の結婚相手である浩一郎さんと住んでしまえ、とオジサマは大胆なことを仰いました。
オバサマも「それがいいわ~。手っ取り早いし~!」とおおらかに笑っていらっしゃいました。このオジサマにしてこのオバサマありですね、と思い、つい笑ってしまいました。
確かに、私ひとりでこの村で生きていくことは不可能でしょう。
僅か14歳の、女にも満たない小娘が生活の糧を得るのは困難です。
でも、そこまで甘えていいんでしょうか。
御父様と御母様のお墓の前で私は、考え続けました。
「いいんだよ。俺と浩一郎が遭難したとき、君のお父さん――ウォンさんは全てを投げうって俺たちを救ってくれたんだ。まあ、だからってわけじゃない。彼と俺は親友だからね。ルゥちゃんのことを託されてるんだ。だから、一緒に日本に行こう」
「オジサマ」
「あとな、泣きたい時は泣いていいんだぜ。いつでも笑ってる、ってのも大事なことだけど、泣いたら泣いた分だけ、その後の笑顔はずっと綺麗になる。絶対にな。君の親父さんの笑顔はキラッキラしてただろ?」
もう、限界でした。私は泣きました。四年ぶりに。泣いて、泣いて。後から後から涙がこみ上げてきて止まりませんでした。
あの、御母様の亡くなった日に全て流しつくしたと思った涙は、私の中にまだまだ残っていました。きっと流れ尽くすことなどないのでしょう。
オジサマとオバサマは私が泣き止むまでずっとずっと傍にいてくださいました。
泣いてもいい、とオジサマは仰います。
けれど。
できることなら、私は、日本では、ずっと笑顔でいたい。そのように思うのです。
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