第16話 笑顔

 御母様のお墓の前で、御父様は笑っていました。

 笑いながら、泣いていました。

 ずっとずっと、そうしていました。


 色々なことを話していましたが、そのほとんどが私のことのようでした。

 あいつはお前に似て美人になるとか、浩一郎さんと上手くいくだろうかとか、なんか最近避けられてるんだとか。そんなあれやこれや。


 オジサマは私を背負ったまま、その様子を見せてくれていました。

 私は涙腺が緩むのを自覚しました。

 涙で目の前が見えなくなりそうになるのを、必死で堪えました。

 この光景を私は絶対にこの目に焼き付けておかないといけないのだと強く強く思うのでした。


 絶対に、忘れないために。

 愚かな私の、心に確かに刻み付けるために。

 何があろうと、お二人の愛を受け継ぐために。


 泣いている暇などあろうはずがありません。


 随分経ってから、オジサマは私は家まで連れ帰ってくださいました。

 私が眠るまで、ずっとそばにいてくださいました。

 オジサマの目は鋭く切れ長なのに、どこか優しげで、柔らかい何かに包まれているように感じられ、私はいつしか眠りに落ちていました。



 翌日以降も、御父様は私の前どころか誰の前でも泣きませんでした。

 いつも笑顔でいました。

 笑顔でいることこそが、御母様への手向けなのだ、と言わんばかりに。



 だから私も笑顔でいようと思ったのです。

 たとえどんなにつらいことがあっても、嫌な目に遭っても。

 御父様のように、強く、明るく。

 御母様のように、優しく、誠実に。



 私は、この時に、そう決意したのです。

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