第15話 父母


 私は、御父様と御母様の、仲睦まじい姿を見て過ごしていました。

 いつでも、どんな時でも、笑顔で、お互いを気遣う姿を、よく覚えています。

 私も、浩一郎さんとこんな夫婦になりたい、と日々思っていました。


 ですが。


 あの日、私が10歳になったあの日、御母様は亡くなりました。島に蔓延した病が原因でした。

 御父様の知らせを受けて、オジサマがお医者様を連れてきてくださいましたが、御母様は間に合いませんでした。


 あの日、私はすべての涙を流しつくしました。

 少なくともあの時は本気でそう思ったのでした。


 一方で、御父様は一度も涙を見せませんでした。

 オジサマの方がよほど多く泣いてくださいました。

 あんなに仲睦まじい様子だったのに、愛していなかったのでしょうか?

 どうして斯様に何事もなかったかのように過ごせるのでしょうか?

 御母様への想いは何処かへ消え失せてしまったのでしょうか?

 それとも元々、どこにも無かったのでしょうか? 


 愚かで、とても幼稚で、何もわかっていなかった私はそんな風に考え、御父様と距離を置くようになりました。


 日中、御父様はオジサマといつも通りに談笑しながら、仕事をしていました。

 当然、泣いたりはしませんし、暗い表情ひとつ見せたりもしません。

 ほんの数日で、御母様のことをまるで忘れてしまったかのように。

 私は木陰からその姿を見て、御父様への誤解を深めていったのでした。


 そんな私の誤解を解いてくださったのはオジサマでした。


 ある夜。

 眠っている私を優しく起こしてくれたオジサマは私を家から連れ出しました。

 子供は夜中に外に出てはいけない、という村の決め事を無視していましたが、オジサマは「俺は村の人間じゃないからいいのさ」と笑っていました。悪い人。私も思わず吹き出してしまったのでした。



 オジサマは私をおぶって、村の共同墓地までやってきました。

 粗末な墓石が並ぶ一番端、一番新しい、私の御母様の、お墓。



 御母様の墓前に、御父様は座っていました。

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