第13話 SNS

 そんなわけで次の休日、俺たちふたりは、ルゥさんのスマホを買いに向かっている。


 俺はあんまりやらないのだが、SNSというやつは学校生活に欠かせないものなのだそうだ。俺が高校の時には二つ折りのパカパカしたケータイでメールくらいしかしていなかったものだが。


 まあ、俺の昔話はともかく、最近の中学生は入学時にスマホを親に買い与えられるケースが多いらしい(俺調べ)。


 近所のスマホ販売店に向かう道すがら、

「あの、浩一郎さん」

「ルゥさん、どうかした?」

「すまほ、というのがないと、えすえぬえすができない、というのはわかったのデスガ、えすえぬえすができると何がいいことがあるのでショウカ?」

 おお。

 質問の内容が難しい。

 俺が詳しくない上に、中学生くらいの使い方だと、えーと、

「友達同士で簡単にテキストや画像で情報交換ができたり、お喋りができるよ」

 だいたいこんなもんか? よくわからん!

「はあ」

 ルゥさん、全然ピンと来ていないな。

「それくらいのことデスと、学校で会った時にお話しすればいいのデハ?」

 まあね。そうなんだけどね。

 現代社会を生きる日本人は、とかく人との繋がりを求めたがる。

 日本とは情報量が圧倒的に隔絶していたであろう場所から来たルゥさんにその感覚は理解できないんだろう。そして、その感覚はおそらく正しい。


「でもさ、緊急連絡用にスマホは持って欲しいんだよ。なんかあった時に俺と連絡できないと困るからさ」

「スマホがあると浩一郎さんと連絡できるんデスカ!」

 いきなり喜色満面になるルゥさん。

 さっきまでのどうでもよさそうな態度はどこへやら。

「そう」

 最近のヤツは色々多機能すぎるけど電話機能がメインなんですよ一応ね!

「じゃあ、浩一郎さん、ごめんなさい。私、スマホ欲しい、デス」


 こちらを見上げ、頬を赤くしてそんな風に言う。

 こちとら元々そのつもりです。

 俺はむずむずした気分になり、頷くことしかできなかった。



「あら? 水元くんじゃない?」

 背後から俺を呼び止める、声。

 透き通った、どこか氷めいた響きのあるこの声は。

 俺は振り返り、思った通りの人物を目視し、挨拶した。

「日下部さん。こんちは」

 職場のかっちりしたスーツ姿とは異なる、オフショルダーのカットソーにゆったりめのロングスカート。眼鏡も普段とは違う、オシャレなヤツだ(語彙力の限界)。

「こんにちは。休日に会うなんて珍しいよね」

「そっすね」

 この辺に住んでるのかなあ。余計な詮索はハラスメントに抵触するので慎むが、気にはなる。

 ところでさっきからルゥさんが俺の手を強く握って離さない。なんなら腕にぶら下がるくらいの勢いだ。

「ところでその子は? 親戚の子かしら?」

「私は、浩一郎さんの、許嫁デス!!」

 険のある、強い調子で、ルゥさんは断言したのだった。



「え? 許嫁?」

「そうデス!」

「あ、えーと」

 日下部さん、オシャレなハンドバッグからスマホ取り出すのやめてください。

「水元くん、通報してオーケー?」

「ダメです!」

 まーたこのパターンかよ。信用ねえな俺。

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