第12話 食卓


 俺ひとりの時には滅多に使われなかったガスコンロの上には土鍋が鎮座していた。

 土鍋でご飯を炊いたらしい。


「ええと、この炊飯器って機械を使うと楽に炊けるから」

「そうなんデスネ! ではスイハンキの使い方を是非教えてくだサイ!」

「わかった。あとでね」


 そして、メインのおかずは野菜炒めのような何かだった。

 独特の、更に言うと未知の味付けがされていて、ついでにちょいと焦げてはいたがこれはこれで旨かった。


 ルゥさん、ガスコンロ以外の調理器具は未知のものだったらしく、できる料理は相当限定されていたようだ。一通り説明しとくべきだったな。ギリギリでガスコンロの使い方は分かってたようでよかった。


 二人で小さいローテーブルを挟んで、俺にしては随分早い時間の夕食を食べる。


「学校で友達はできた?」

「ハイ! 皆さん、すごくいいひとばっかりデスヨ!」

「担任の加藤先生はどう?」

「優しいデス。私のこと、気にかけてくれてマス。もしお家で何かあったら言うのヨ、って仰ってマシタ」

 おおー。信用されてねーぞ俺。胃がキリキリするぜ。

 先生がしっかり気にしてくれてるのは有難いことだと思うことにしよう。そうしよう。

「変なことしてくるやつ、いなかった?」

「変なこと、ってなんデスカ?」

「悪戯、とか?」


 するとルゥさんは少し考えて、


「男の子に髪の色のこと言われましたケド、この髪は御母様がくれた髪ですカラ! ガツンとやりかえしてやりマシタ!」

 とふんす、と両手をぐっと構えたあと、屈託なく笑った。

 意外とアグレッシブだなルゥさん。


 いや、そうじゃなく。

「ルゥさん、その男子生徒の名前わかるか?」

「浩一郎さん、怖い顔になってマス」

「元々こんな顔です」

 クソガキが。素性が分かり次第、絶対に、社会的に、合法的に、徹底的に、詰めてやるからな。覚えてえやがれ。大人を舐めるなよ。

「ふふ、浩一郎さんはお優しい方デスネ」

「うん?」

「そんなに心配はご不要デス。でも、お気持ちはとても嬉しいデス」

 そっか。じゃあ今回は見逃してやろう。


「あ、ところで浩一郎さん?」

「うん?」

「お友達にやってないか、と聞かれたのデスけど」

「何を?」

「えすえぬえす、って何デスカ?」


 あー! なるほどね。そりゃそうだ。スマホ持たせてあげないとだな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る